INTERVIEW

自ら「価値」を見出せば。
兼業農家という、現代農業のひとつの歩み方。

Vol.16 参加企業インタビュー

2024年7月20日(土)~21日(日)の2日間、コクヨ東京品川オフィス「THE CAMPUS」で開催されるPASS THE BATON MARKET。第16回となる今回は、米を惣菜の力で動かす実験的企画「米惣動―北陸編―」を展開します。当日、ルーローハンや黒米といった商品をご提供いただく石川県の米農家で、台湾料理店「四知堂kanazawa」、アンティークショップ「SKLO」のオーナーでもある塚本美樹さんにお話を伺いました。


米農家 兼 台湾料理店オーナー 兼 アンティークショップ店主



―― 今回は「米惣動」にご参加いただいてありがとうございます。当日は、キッチンカーで提供されるルーローハンや、物販コーナーで黒米の販売をいただきます。塚本さんは、いくつかの肩書や側面をお持ちですが、まずは自己紹介をお願いできますか?

塚本:取材いただくたびに、プロフィールを書くのが難しいと言われますがまずは説明してみますね(苦笑)。僕は農家の長男として生まれました。「農家の長男」という日本の伝統的なしがらみや呪縛から逃げたかったこともあり、高校卒業後はオーストラリアに留学しました。非現実の環境に身を置くことが心地よくて、ニュージーランドや北海道に行ったものの、自分のルーツが農家であるということが離れず、日本社会のことも知ろうと思って、23歳で日本で就職しました。3年くらいでやめて、また海外に行ったりしながら、28歳の頃、金沢でアンティークのお店「SKLO」を始めたんです。


―― すでにお聞きしたいところが山ほど出てきていますが、そのまま伺っていいですか?
塚本:はい。海外を渡り歩く中で、蓄積された歴史の厚みがあるヨーロッパに感動したんですね。チェコとドイツにすごく面白さを感じて。特にプラハとベルリンに心を打たれて、この2つの街の変化を見続けたいという思いから、アンティークの買い付けを始めました。そうして20年近く経つと、気が付けば、周りからみると「アンティークの人」になっていたんです。僕の性格上、「この人は、アンティーク屋さん」と見られるとそれをいい意味で裏切りたい気持ちがわくんですね(笑)。実は、お店のオープン当初から、金沢から車で30分ほどの地元の集落「七黒」で農業も同時に始めていたのですが、次は何をしようと考えたんです。自分の好きなこととしての「アンティーク屋さん」と、自分がやらなきゃいけないこととしての「農業」の並行だけでは飽き足らず、もっと違うことをやらなくては…!と思って、ギャラリーを作り、それに加えて「飲食」を始めたんです。

「○○さんは、○○○の人」という固定化を、いい意味で裏切りたい



―― 「アンティーク」と「農業」という組み合わせの時点で、非常に驚きがあるのですが、さらに「飲食」が加わったと。
塚本:飲食はずっと頭の片隅にあったんですよね。「アンティーク」と「農業」という天秤に「飲食」が加わると、天秤を超えて、もっと組織として広がれると思ったんです。アンティーク屋で人と出会い、米農家として米を作り、その骨董品や米を使って飲食をするというようにいろんなサイクルが回りだす。その後、江戸時代から続いた老舗油問屋の物件と出会い、台湾の料理店「四知堂(スーチータン)」のオーナー・陳超文さんとの出会いがあって、食事を食べるだけでない体験としての新たな場をつくれるんじゃないかなとお店を開きました。


―― ここで、ようやく「米惣動」につながっていきますね。今回は、キッチンカーで提供されるルーローハンを商品提供いただきますが、どんなお味なんでしょうか。
塚本:僕たちにとって、台湾は知っているようで知らない場所ですよね。一番わかりやすい入り口として、ルーローハンを始めました。ルーローハンは、ジャンクフードなので、油ギトギトで煮詰まってくどくなって、肉がなくなって汁だけになりがちです。それを地元の素材も使って、ちゃんと作ろうとシェフと話したんですね。肉は能登豚を使って、身体に悪いものを使いたくないからと素材にこだわって、食べやすい形に仕上げました。

牛と馬との稲作から、GPSや自動運転の時代へ



―― さて、ここからは「米農家」としての塚本さんに迫っていきたいと思います。
塚本:石川県津幡町笠野という地域で、「かさの郷」という農事組合法人を展開しています。僕の代で17代目です。遡れる資料がお寺の火事で燃えてしまったので、わからない部分もありますが、地域としては平安時代から米生産が続いているという文献があります。今に目を向けてみても、日本では各地で、生活のなかでお米が切っても切れない存在になっています。今の人が共感できる形でつないでいくのが僕の役割かなと思っているんです。


―― 時代ごとに、できることややれること、求められることも変化がありますよね。
塚本:今思うに、父親たちの時代が農業においては一番面白い時代だったんじゃないかと思うんです。父が生まれた当時は、まだ牛と馬で農業をしていたんですよね。戦争が終わって昭和30年代に、稲作に機械が導入されて、少しずつ機械が発展し、田んぼが大きくなり、GPSで自動運転が標準になってハンドル持たなくて良いところまで来たわけです。父親たちの世代が生きているこの50-60年の変化というのは、長い目でも見ても一番激動だなと思いますし、同時に頭がついていかなくても仕方がないほどの変化だと思います。それまでの歴史の進み方はもっとゆるやかだったはずで、前の世代とだいたい同じようなことをしてきたはず。この先どうなっていくかが全然想像できなくて当たり前だなと思うんです。

―― 農業に限らず、世代感覚のちがいは、昨今、分岐点にあるようにも思います。
塚本:僕たちは今、あえて昔ながらの手法も取り入れてお米を作ることもしています。というのも、若い世代の農家は、昔の農業の仕方を知らず、機械で全部をやろうとしてしまいがちなんですね。手で植えて、手で刈る、そういう腰が痛くなるような農作業というのは、日本の稲作の歴史のほとんどがそういうやり方だったわけで、機械化はほんの数十年の話ですよね。今のことしか知らずに、農業や米作りをやっていると言えるのかという気持ちがあったんです。今回、物販で展開いただく「黒米」は、昔ながらの作り方に学びつつ、完全無農薬。原産地は東南アジアでもち米の一種で、普通のお米に混ぜてたくと、色がつき、もちもちの食感で冷めてもすごくおいしくなるんです。米作りの伝統、歴史を引き継ぎたい。そんな気持ちで作っています。

自分の今の視点で、農業経営を捉える



―― 「かさの郷」ではどのような世代や体制で農業をされているんですか?
塚本:法人立ち上げの少し前のタイミングに、国から「担い手制度」が提示され、農地を担える人のもとに農地を集約し、そのために農地を手放すとお金がもらえるという「認定農業者制度」ができました。僕たちもその際に手をあげたので、地域の田畑がどんどん集まってきて面積が拡大しました。認定農業者制度のタイミングで、「農事組合法人」となりました。現在の日本では約8割が集落営農で、残りの2割が株式会社的な形式をとっていると言われていますが、集落の中で方向性の違いもありますし、僕たちの場合は自由な競争原理の中でやるべきだと思って、集落として農業をやるのでなく、農業法人を選びました。今の法人は代表が僕の父で、近所のおじいちゃん数名が理事という形です。

―― 時代の変化を一番見てきたお父さんやおじいさんの世代とも一緒にやられているんですね。
塚本:そうです。ただ法人の中でもグループを分けて経営しています。端的に言うと、上の世代のグループと、僕や後輩のグループのお金の流れを別にしているんです。作業は一緒にやっても、取り組み方はそれぞれ。上の世代のグループはこれまで通りの稲作を中心に進めて、我々世代は、より良いお米をつくり、付加価値をつけてブランド化して、農業を魅力あるものとして発信したり、飲食店などに卸したりといったアプローチをしています。今回の「米惣動」へのお声がけも、おじいちゃんたち世代へ話すと「なんだ?一揆か?!」となってしまいかねません(笑)。無理に僕たち世代に合わせてもらうのでなくて、それぞれの考え方を生かしていく体制づくりをとっています。農業をやっているのは、自分の地域ではおじいちゃんばかりで、満身創痍というかいっぱいいっぱいで、未来がないものと悲観的になっている場合もあります。そういう環境にいると自分も引っ張られることもあるけれど、インタビューに答えたり、国内外を行き来したりすることで、俯瞰する目を持てて、ネガティブにならないようにできている部分があるんですよね。色んな経験を通じて自分が身に着けた考え方そのものを、これからの未来の農業にも当てはめて考えると面白そうだなと思っているんです。

アンティーク屋 兼 米農家の視点からみた「古米」



―― 今回、「米惣動」の企画をご相談した際にはどんな印象をお持ちになりましたか?
塚本:めっちゃ面白いなと思いました。主催の皆さんがやろうとしていることが伝わってきて、断る理由はないなと。米騒動というと、やはり富山が有名だけれど、僕たちの地域も富山にも近いですし、「米騒動」とはちがいますけど一向一揆が起こったエリアなので、すこし近い感覚を覚えます。「古米」に着目されているときいて、「おおっ!」と思いましたね。

―― 塚本さんからみた「古米」とはどんなものでしょうか?
塚本:日本国内だと生産調整によって、本来は古米ができない仕組みになっているんです。なのでいろんな視点から言うことができるけど、政府などがうまく生産調整できなかった結果ともいえるし、作り手としては「新米だけがおいしくて、古米がおいしくない」というのは本当にそうかな?と疑問に思っていました。お寿司屋さんが古米を混ぜて使うケースもあるし、車でいえば、新車を買うのが正しいとされていて、中古市場が存在しないみたいな感覚ですよね。新米や古米というネーミングも、違う言い方にしたらいいのかもと思ったりしますね。古米じゃなくて、「寝かせ米」や「熟成米」と言ってみるとか。

―― 古いものに価値を見出すという意味で、アンティークとも近い価値観ですよね。
塚本:過去に何らかの目的で作られたもの、それは一見ガラクタのようなものであったとしても、アンティークは古いものに価値を見出す仕事であり、それは全ての仕事において重要だと思っています。アンティークは新しくものを作っていないけど、すでに世の中は、作りすぎたものであふれている。それを捨てきれず処理したりしているわけです。そういう意味でもPASS THE BATONには共感しています。僕は、古いものに価値を見出す視点は、これからの時代に重要になってくると思っているんです。ずっとアンティークをやっていたから持てる視点や発想があるし、そうしたものの見方や視点が、飲食や農業にも生きるはずだと考えています。


かさの郷 / SKURO / 四知堂kanazawa オーナー
塚本美樹さん
2005年に石川県金沢市にアンティークショップ「SKLO room accessories」を開業。同年に、代々続く米農家を守るべく「SKURO Farm 」を立ち上げ、本格的に農業をはじめる。2018年にギャラリー「SKLo」、2020年に台湾料理のレストラン「四知堂kanazawa」、2021年にホテル・香林居内に「karch」を開店。無農薬の黒米の栽培から、展覧会やイベントなどの企画・開催や空間のスタイリングまで様々な活動や店舗の運営を手がけている。
PASS THE BATON MARKET vol.16 開催概要

【日時】 2024年7月20日(土)〜21日(日) 11:00〜19:00(最終日は18時終了)
※最終入場は終了時間30分前まで/雨天決行
【住所】 東京都港区港南1-8-35
【お申込み】
①特別前売り券:500円
②当日券:通常当日券300円、オウエン入場料:500円、1,000円
寄付ができる3パターンの入場料をご用意いたします。
※小学生以下無料
※寄付金は能登半島地震の被災地に対するPASS THE BATONなりの支援のカタチを考えました。
詳しくはこちらをご確認ください。
【URL】 https://market.pass-the-baton.com/event/vol-16/
【主催】 PASS THE BATON
【共催】 コクヨ株式会社
【運営】 株式会社スマイルズ
※入場までにお時間をいただく場合があります。
※最終入場は終了時間30分前まで/雨天決行
※社会情勢を鑑み、上記の情報は変更の可能性がございます。



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