INTERVIEW

古米に価値あり!自分たちらしい現代の
「米農家」像を求めて。

Vol.16 参加企業インタビュー

2024年7月20日(土)~21日(日)の2日間、コクヨ東京品川オフィス「THE CAMPUS」で開催されるPASS THE BATON MARKET。第16回となる今回は、米を惣菜の力で動かす実験的企画「米惣動―北陸編―」を展開します。当日、古米をご提供いただく石川県能美市の米農家「たけもと農場」の竹本彰吾さんにお話を伺いました。



米農家にとっての「古米」の話



―― 今回は「米惣動」にご参加いただいてありがとうございます。たけもと農場は、どのようなお米農家さんなのか、改めて伺えますか?
竹本:石川県能美市で、確実な時期で言うと江戸末期ぐらいから米農家をしています。僕の家は、10代前までは家系図で米農家であることが辿れています。僕自身は大学を出て23歳で就農をし、1993年に先代が農業生産法人を設立。自分たちは、米農家としての「普通」にとらわれすぎず、いろんなことにトライしようと思っているんです。13年前から国内でいち早く、イタリア米「カルナローリ」の栽培をはじめて、現在ではイタリア米とスペイン米が全体の約3割を占めています。一般的な卸売りだけでなく、自分たちで個人の方やレストランさんに直接販売をしたり、ECサイトを運営したりしています。


―― 「PASS THE BATON」からはじめてご連絡がいった際は、驚かれたことと思います。
竹本:はい。妻の勧めで、京都の「PASS THE BATON KYOTO GION」(※現在は閉店)に行ったことがあったんだけれど「なんでPASS THE BATONがうちに連絡を?」って(笑)。「PASS THE BATONとお米って、どういうつながりなんやろ…?」ってびっくりしました。米惣動の企画の話を聞いて、なるほどと。そもそも米騒動は当時の社会運動だと思いますが、それだけ米が大事だったから起きたんだと思うんです。皆さんが古米への課題感を持ってくれていることに、米農家として嬉しくなりましたね。
新米が出た瞬間に、古米というものが生まれるわけですが、商習慣として、古米になった途端に価格が下がることに少し納得がいかないという気持ちが前々からありました。今は保存技術も上がっているので、古米になったからといって「ものが悪い」わけじゃない。それでもイメージとして古米=おいしくない、という先入観はなくならないですよね。



―― たけもと農場では、「古米」についてどのように対応してこられたんでしょうか。
竹本:基本的に古米にならないように売りさばくことが大前提ですね。うちらで言えば、秋に新米が取れると、前年獲れたものが古米になって売れづらくなるので、春先くらいから秋までの売れ行きを見込んで、余りそうなら早めに売ってしまうという感じです。売りさばけないことはないが、値段が落ちてしまうことは多々あります。市場との関係がシーソーゲーム的になっているので、生産量が減ると高く買ってもらえるし、余っている時に持ちすぎると安く買いたたかれてしまう。価値は変わらないのになと思いつつ…。
イタリア米を作るようになって知ったことですが、イタリアでは「古米」っていう感覚があんまりないらしいんです。リゾットを作るときは、お米の水分が減れば減るほど、スープの吸いがいいので、おいしく作れる。古ければ古いほど価値がある状況が逆に発生しているらしいんです。日本とは異なる価値観ですよね。

自分たちらしい、「米農家」像を求めて



―― イタリア米を育て始めて13年と伺いましたが、そのきっかけを教えてください。
竹本:うちの場合、僕が「就農10年で代替わりする」と決まっていたので、早いうちから10年後を見越した取り組みをしたいと模索していました。そんな時に、たまたま打ち上げで行ったイタリアンレストランで、シェフをご紹介いただいたんです。米農家さんだからと、リゾットを出してくださって。「リゾットは、日本の銘柄のお米じゃおいしくできないから、イタリアから『カルナローリ』を輸入して作っているんだけれど、輸送費や関税で高くて困っている」と聞いて、ピン!ときたんです。これを作れたら高く買ってもらえるし、自分の代の特徴にもなりうると思い、始めることにしました。取り扱いをはじめたのは、国内では本当に最初の方だと思います。

―― 続ける中で、イタリア米にも力を入れることにしたのはなぜですか?。
竹本:実際に商談会で、カルナローリはうけがすごく良かったんです。後続の生産者が少しずつ増える中で、業務用の販売を先駆者として進めるより、家庭向けのラインナップをした方が、結果的にレストランでリゾットを食べる人も増えるのでは?と思ったんです。先駆者としてどう在りたいかを考えたときに、みんなでパイを奪い合うのではなくて、パイ自体を大きくしたいと思った。今では調理キットもECサイトで扱っていますが、いろんなアプローチでお米を楽しんでもらえる人を増やしたい。そう思って取り組んでいます。

―― 一般のお客様向けの販売を始めたのは、そういった理由もあるのですね。
竹本:うちが個人のお客さんに直接販売をしたり、インターネットで販売をしたりするのは、 危機感半分、ロマン半分ですね。親から事業承継して、後継ぎとして就農すると、やっぱり何かと「親父のおかげ」と言われがちなんです。やっぱり自分たちの代ならではの個性というか、やり方を見出していきたい。イタリア米もそうだけど、レストランのシェフや一般のお客さんからのリアルな声も聞かせてもらえるのが面白いんですよ。

―― お米農家さんそれぞれに「スタイル」がありますが、竹本さんの場合は、どんなところにやりがいを感じていらっしゃいますか?
竹本:今は扱っている面積が広い分、複数の田んぼ所有者が関わっているんです。2集落担当しているので、地権者も100軒を超える状態。集落自体の期待感をすごく背負っているというのが、プレッシャーでもあり、やりがいでもあります。

誰でも、田んぼに遊びに来てほしい



―― 米作りには、現代ならではのさまざまな課題もあると聞きます。どんなことが課題になっているのでしょうか?
竹本:そうですね。肥料や燃料価格の高騰とか、米消費量減とか、事業承継の問題などありますけど、僕自身はそこまで悲観していません。ほかの米農家さんと考え方が違うかもしれませんが、僕自身が課題だと感じているのは、「田んぼから人が消えること」です。父世代の時は、田植え稲刈りに駆り出されて、子どもながらに重労働で嫌だと思っていたが、機械化が進むと同時に、こども時代の田植えとの関与やその風景が無くなってきているんです。例えば、用水路の掃除も、今はまだ集落総出で日曜の朝にやっていたんですけれど、機械化で確かに人手は減るものの、結局は集落の川への関心がなくなっていくことにつながってしまう。「みんなの生活に根差した川」から、「単なる川」になってしまうことを憂いています。


―― 関わる人が減っていくことは、風景が失われていくことにつながるんですね。
竹本:もとから米農家は、「どれだけ少ない人数で、どれだけ大きい面積を扱えるか?」というゲーム的な部分もあって、飲み会では「うちはたった2人でこんな面積やってるぞマウント」のようなものが存在するんですね。1人で広い面積をやるのは、経営上は一見大事でも、農業としての難しさを少人数で抱えることにもなってしまう。なので、僕らはできるだけ、多くの人と米作りをしようと思っているんです。うちは現在7人体制で、全員を正社員として雇用しています。


EC担当を分けるとかでなくって、みんなでいろんな仕事をしている。生産だけでなく、お米の保管、精米、出荷などなど。「今」だけを見ているとお米の値段は下がって肥料などの値段は上がるから、経営が厳しいと思っている若い世代もいると思いますが、長い目でみると、田んぼを手放す人が増えてプレイヤーが減るからこそ、逆に継いで続けることに十分チャンスがありうると思っている。兼業農家さんという働き方も出てきてるし、僕らのPodcastだったり、WEBを見て、こうやって「米惣動」お声がけいただいたり、チャンスややり様はたくさんあると。

―― 最後に、今回の米惣動でどんなお米を出していただくのか、ご来場いただく方に伝えたいメッセージを教えてください。
竹本:わりと定番な銘柄ですが「コシヒカリ」と「ミルキークイーン」をご用意しました。土地が粘土質で水気が多いので、お米もよく水分を含んで、食感としても柔らかめです。米惣動にご来場される方には、こちらにぜひあそびに来てほしいなって思ってます。いいロケーションのところやし、僕らは作業していると段々と殺伐としてくるんよね(笑)。いろんな人が遊びに来てくれて、お話しできると、一気に回復しちゃう。個人の方でも、ホームページからご連絡いただいてふらっと来ていただけたらうれしいです。お待ちしています。

―― 竹本さんのところのWEBサイト、URLが素晴らしいですね。
竹本:いいでしょう?語呂がいいからお米LOVEにしちゃった。
詳しくは https://okomelove.com/(笑)
有限会社たけもと農場 代表取締役 竹本彰吾さん
昭和58年生。石川県出身、在住。高校3年生の時、父から受けたプレゼンを機に就農を決意。鳥取大学卒業後、有限会社たけもと農場入社。「就農10年で社長を替わる」という父との約束どおり、33歳で有限会社たけもと農場の代表に就任。インターネットでお米の販売の開始、国産イタリア米の栽培、トヨタ自動車らとの米づくり改善事業、井関農機や鳥取大学らとの可変施肥田植え機開発への参加、六次化ブランド「テーデルゲン」立ち上げ等、チャレンジする農業を展開。全国農業青年クラブ連絡協議会(日本4H)会長を歴任。著書「今日からはじめる農家の事業承継」(家の光協会)。使命は「#農業をなりたい職業イチバンに」。

PASS THE BATON MARKET vol.16 開催概要

【日時】 2024年7月20日(土)〜21日(日) 11:00〜19:00(最終日は18時終了)
※最終入場は終了時間30分前まで/雨天決行
【住所】 東京都港区港南1-8-35
【お申込み】
①特別前売り券:500円
②当日券:通常当日券300円、オウエン入場料:500円、1,000円
寄付ができる3パターンの入場料をご用意いたします。
※小学生以下無料
※寄付金は能登半島地震の被災地に対するPASS THE BATONなりの支援のカタチを考えました。
詳しくはこちらをご確認ください。
【URL】 https://market.pass-the-baton.com/event/vol-16/
【主催】 PASS THE BATON
【共催】 コクヨ株式会社
【運営】 株式会社スマイルズ
※入場までにお時間をいただく場合があります。
※最終入場は終了時間30分前まで/雨天決行
※社会情勢を鑑み、上記の情報は変更の可能性がございます。

Related Posts