Yonetomi INTERVIEW

「ニットとは何か?」が問われている


1952年に山形県山辺の地に創業して以来、ニットメーカーとして高い技術を継承しながら、メーカーの枠を超えてオリジナリティの高い提案を行う‘米富繊維株式会社’。2016年よりパスザバトンとのオリジナルアイテムを開発。メーカーとして通常は取り組むことが難しい残糸を使った数々のプロジェクトをパスザバトンとのコラボレーションにより実現させ、未来に先駆けた新たなプロセスに挑戦している。その‘米富繊維株式会社’の開発における工夫や、それぞれの工程におけるプロたちのモノづくりへの思いとは。


 「ほかにはない」を求めて
  ニットにそそぐ愛

――今年はオリジナルアイテムの第7弾を実現することができました。パスザバトンとのモノづくりのプロセスとその背景にある工夫やプロセスの難しさなど伺いたいのですが。


「糸」に関して社内に右に出るものはいない原料のスペシャリスト、OEM営業チーフ 安藤俊亮

OEM営業チーフ 安藤俊亮:パスザバトンのオリジナルの場合は、他のOEMとは違って、まず原料の残糸を探すところから始まります。そして、残糸は通常のアパレルのお客様との開発時に使えるような量がないので、企画の最初の段階で型数に制限をかけることで実現しています。 昔は糸の生地原料を自社用に別注して染めていることがほとんどだったのですが、今は製品としてサンプルブックを見て発注できるようになったので、わざわざ紡績して製造することが少なくなった。なので、昔に別注したもので開発の必要分量がなくなったものは倉庫に眠ることになる。実のところ100キロ以下になるとアパレルブランドでの開発は難しいんです。提案して想定以上の発注をいただいてももう作れない糸ですし、こちらも保証できないので、どうしても提案できないまま残ってしまう。
また、残糸を使うと、なかなか素材もハマって、キロ数もハマってと、うまい具合にマッチングすることはないんです。そういう特性を理解してハマったところがあっても100キロ中、実際には30キロしか使わないという可能性もあります。そうなると残りの70キロがまた中途半端になってしまいます。パスザバトンはあるだけで作るというのが前提条件なので提案しやすいし取り組みが継続している一つの要因だと思います。
それと、今年のオリジナルでも使用していますが、よく使うモヘアについては価格高騰によってどのメーカーも別注して在庫をもたなくなった素材です。そのために高品質なモヘアほど紡績できるところが少なく原価が高くなりすぎて売れなくなってしまった。そういった背景を持った米富繊維で別注したモヘアを使っているので、実は現在では実現しない高品質な素材の提案になっているんですよ。





世界でも類を見ない編地開発の歴史と培われた米富繊維の技術そのもの、商品開発室長 鈴木恒男

商品開発室長 鈴木恒男:パスザバトンで今まで残糸を使っていろんなことをやってきました。強縮したりとか、圧縮したりとか、後染めしたりとか、普通の取引先とはやらないことをやってきました。原料が限られる中では、つくれる編地やアイテムは限られる。制限のある中での開発の難しさがいつもあります。
今年のオリジナルは糸と編み方と染め方のバランスが思った以上に良かった。こんなの今も昔もやったことないです。染め方もしかり、パスザバトンはあえてむら染めにしているが、一定に染まらない手法を使って製品を作る企業はいない。また、ドロップといって落としケーブルというケーブルを立体に編む手法を使っていて、立体のケーブルは目外れしやすいし、編むのに時間がかかる。でも最終的には編地の隙間が多くあくドロップという編み方と後染めというやり方とゲージの大きさとのバランスがよくて、これはキットモヘアという糸を使っているのですが、スーパーキット(最高級モヘア)と勘違いするほど劣らない風合いの良さがでた。最初は想像もできなかったことがやっているうちに偶然にも起こって、結果的にうまくいったということだね。結果論、笑。他の取引先で同じ糸を使っているものでこんなにいい仕上がりになったものは見たことがない。





「だってニットを愛してるんだもん」と語る成型と縫いのプロ、企画/成形・リンキング 中嶋トシ子

企画/成形・リンキング 中嶋トシ子:パスザバトンのオリジナルで3ゲージと7ゲージの違うゲージをリンキング(縫い合わせる)することがあって、そのバランスをとるのは難しかったです。そしてよくやっている後染めは染める時に素材が縮むのでその縮率を計算しながらリンキングしなければならない点が難しいところ。編み地の状態でどのくらい縮まるか計算して編んだものを私のところでリンキングして、だから染める前のリンキングだけの状態では袖なんかすごく長くなる。最初はただふわっとしているものが製品染めと加工が加わることによって風合いが変わるんです。色々な色を使ったりすると色によって縮率が変わったりするので、リンキングする時の調整が大変なんですよ。
今年のケーブル編みのオリジナルセーターは、後染めと編みの柄行とゲージと、その辺のバランスが良かったんじゃないかと思います。仕上がりのこの滑り感が本当にいい。バラバラのパーツを縫って組み立てていくと、途中からあーこれはダメだ売れないよ〜ってわかったりします。大体サンプルの段階でなんかおかしいなと思うものは後で変更になったり。このセーターは風合いもそうだけど、サイズ感もこの素材に合っていてバランスがいい。
風合いに関しては、染める前と後のものを比べてみると加工前と後にどれだけの差があるかわかると思います。カシミヤ100%のセーターも加工前はあの風合いになるとは思えない仕上がりなんですよ。ニット製品は加工するものだし、加工した後を想定してつくられてるんです。縮率によって、縮むものは縮むなりに編むし、リンキングもそう。縫ってて多少詰め気味にリンキングするとか。いままでの経験と感覚を駆使してリンキングしています。今回の所要時間は1着50分くらい。最初にわたしがリンキングして基準を決めて、量産用の指示書をつくるんです。





「展開を考えろ」が口癖、元デザイナーという異色の経歴と神業の技術力を持つ、企画/チーフパタンナー鈴木智子

企画/チーフパタンナー 鈴木 智子:パスザバトンで開発した編み地サンプルは隠しています。なぜなら他の営業やデザイナーが同じことをやりたいって言ったら大変過ぎて困るから、笑。パスザバトンのオリジナルでは強縮コートのパターンづくりに関わりましたが、それぞれの編地の作り方が全くバラバラで、それをミシンで縫えるように工夫してパターンを引きました。それでも縫い合わせる編地のフチは均一にならないので各パーツの厚みを減らすためにフチにロックミシンをかけて編み地を潰して平らにしました。最初、ミシン屋にいったらどうやっても縫えないといわれてしまったんですよ、何人か職人さんが眠れなかったって話を聞きます(笑)。ニットの場合、生地が伸びたり縮んだり、ダレたり、思うようにいうことを聞かないんですよね。ですから、通常の布で引くパターンそのままというわけにはいかない。布は目が詰まっていて安定感があるけれど。
「この世に存在する洋服を一通り作ってみたい。」という代表の思いもあって、今までライダースとかGジャンとかMA1とフライトジャケットなどパターンをおこしてニットで作ってきました。基本のミリタリーでやってないのはM65くらい。モッズコートもテーラードジャケットもつくりました。こういった今までにやったことのないモノをニットでつくることで米富繊維に新たな技術が増えることにつながっています。例えば、Gジャンをつくる工程で、できるようになったこともありました。Gジャンのハトメはそのままではニットには止めることができなかったんです。なぜならニットの組織は布のように目が詰まっていなくてハトメがうまく効かないから。芯を張ったり、いろいろ工夫して、最終的にはできるようになったのですけれどそんなものづくりを通して少しづつ今までにない技術を開拓しています。


米富繊維が手掛けたパスザバトンオリジナルの数々はコチラ
2019年10月 新作!!
2019年9月
2018年9月
2018年4月
2017年10月
2017年9月
2016年10月




代表取締役社長兼デザイナー 大江健

 洋服屋ではない
 ブランド発信のための場所を探して


――‘米富繊維株式会社’はパスザバトンとのオリジナルアイテムの開発を始める前から自社のファクトリーブランド「COOHEM(コーヘン)」とのコラボレーションアイテムやギャラリー展示などで様々な取り組みを企画してきました。そのスタートはどのようなきっかけだったのでしょうか。


代表取締役社長 大江健(以下「大江」):パスザバトンのお店を初めて見に行ったとき、物凄く新鮮で同時に衝撃を受けました。ずっと洋服の業界で育ってきた僕にとってはいつも新しいものがすべてなんですよ。その商品陳列や構成も、このラックはインポートで高額品用、こっちはオリジナル品で数を積んで、セールになったらセール品と対象外と分けて、どんどんセール品を少なくする努力をして、次のシーズンの立ち上がりが来たら過去のモノは振り向かず、次のものにしか注力しない、そういう洋服業界のセオリー、、、それがパスザバトンでは、それぞれ全く素性の違うものが平等に扱われている、、、僕みたいに洋服が好きな人も利用できるし、雑貨が好きで利用する人がいてもいい。ここは感度の高い人たちにも伝わる空気があってバランス感がすごいんですよ。すごく好きな店で、こういうのをなんでその当時に勤めていた会社はやらないのかなと考えたりして(笑)。
「COOHEM」を始めたばかりの時は、ブランド発信のためにいろいろな場所を調べていて、洋服を一緒に売っているカフェとかパン屋とかいろいろあるのだけれど、こんなにジャンルも年代もバラバラで新鮮に見える店はやっぱり他にはなかったんです。毎回行くとレイアウトも微妙に変っているし、いろいろなものが混在しているけれど無秩序ではないんですよね。スタッフの方たちはさぞかし大変だろうと想像したり。ただ、「カワイイ。」とか「カッコイイ。」とか一辺倒な接客は通用しない。すごい知識量と統一されないものをディスプレイするセンスを求められる。そして、自分のブランドをここでなら発信したいと思ったんです。


――ユーズドのセレクトショップやリサイクルショップの利用が昔よりも一般化したように思います。パスザバトンと違って見えているポイントがあるとしたら何でしょう?


大江:パスザバトンに置いてあるものは基本的には何でもいいわけではなくセレクトされていると思うんですけど、パスザバトンならではの物差しのようなものがあると思うんです。セレクトショップといってもシャネルとかエルメスとかヴィンテージとかそういうものだけに限って置いているわけじゃなく、モードによっているわけでもトラッドベースで古臭いわけでもなく、、、それが多分ブランド力につながっているのかなと思います。いつ来ても絶妙なバランスで選ばれたものが並んでいるという感じがします。同じ商品がパスザバトンで見るのと他で見るのとはまったく違って見える。それには空間の力というのも作用していると思います。たとえば表参道店は入り口から暗いところを下がって店に向かうところから始まると思うのですが、地下2階にたどり着くと、いきなり真っ白な「ぱーっ!!」とした空間が広がって、そういう一発目のインパクトのある空間づくりとか、ユーズドの商品を販売する店には見えないギャップとか、一番初めにあのシャンデリアを見たときは本当にびっくりしました。


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――2012年よりお付き合いをいただいていますが、その当初と今では思いは変わりましたか?パスザバトンにしかないメリットは?


大江:まず、リクルートですよね(笑)。パスザバトンでコーヘンを見ましたっていう人によく出会います。今、コーヘンのウィメンズデザイナーをしているスタッフもそうですし。あとは、パスザバトンでコラボレーション商品を買った業界の方とかにもお会いしたり、IMAの小林夫妻から名刺ケースを持っている人がまわりに本当に多いんだけれどと、うれしいお言葉をいただいたり、ファッション関係の人たちよりはデザインやプロダクト関係や美大生とかパスザバトンのファンの方たちがパスザバトンを通してうちを知ってくださっているように思います。ほぼ日手帖もCOOHEMのカスタマイズイベントのレセプションの時にご担当者に声をかけられて実現したんです。パスザバトンが人やビジネスとかいろんなもののハブとなっているんです。




 シーズンに縛られない
 モノづくりの展開へ


――今年のギャラリー展示『Yonetomi KNIT ARCHIVES ─未来に先駆けて進化するモノづくり─』では「COOHEM」だけではなく「米富繊維」にフォーカスをあてた企画になりましたが、今後について、あらたに挑戦したいことなどありますか?


大江:今回のイベントではブランド始まって以来初めて、「COOHEM」のアーカイブを展開します。ファクトリーブランドだからこそ、デッドストック化したものをテキスタイルだけ残して雑貨にするとか、極力そういうやり方を選択していける環境なのですが、ブランドを運営していくとサンプルや糸など会社に溜まっていってしまうものは、完全受注生産という方法を取らない限り出てきてしまいます。そして、「COOHEM」も完全受注生産というわけには今のところいかないのが現状です。普通の卸先さんだとどうしても去年のものを販売することは難しいですし、セール品ばかり並んでいると新しいラインやコレクションが販売しづらかったり、それを明確に分ける必要がブランドとしてもある。そういった差別化の点でもパスザバトンは素晴らしい、お客様が洋服屋で安くなった服を買う感覚とパスザバトンで買う感覚では、全くモノの見方や感覚が違うという点で。安いから買うという理由付けでは必ずしもなくパスザバトンにあるから買う。やはりモノづくりをしてどんどん進み続けていると、どうしても在庫は出てきてしまいます。トレンドやシーズンなどに関係なく物の価値を伝えてくれるパスザバトンのようなお店でポジティブにお披露目できるなら、アーカイブの展開を今後も積極的に継続していきたいと考えています。また、「COOHEM」のアーカイブを解体して、新たに「米富繊維」の技術を駆使して1点ものを作り、パスザバトンでしか買えないスペシャルピースをつくるとか、そういう取り組みができたら展開していきたいです。以前に一度、自社でトライしたことがあるのですが、作っているうちにリメイクが一番大変だということがわかって、仕上がりは結構面白いものができるんですけれど、大変過ぎるのでチーフパタンナーの鈴木に「暇な時でいいから。」って言ったら「いつ暇なんだ?」といわれてしまいました(笑)。




『Yonetomi KNIT ARCHIVES -未来に先駆けて進化するモノづくり-』

会期:2019年10月17日(木)~11月10日(日)
会場:PASS THE BATON OMOTESANDO GALLERY
〒150-0001 渋谷区神宮前4-12-10 表参道ヒルズ西館B2F パスザバトン表参道店内 03-6447-0707
月~土11:00 ~ 21:00(日祝11:00 ~ 20:00) 
※詳細はコチラ







米富繊維株式会社 ─よねとみせんいかぶしきがいしゃ─
山形県山辺町にて1952 年に創業したニットメーカー。自社内に ニットテキスタイル開発部門を擁し、オリジナル性の高いニット製品を提供しつづける。これまでに開発されたテキスタイルは 一万数千枚におよぶ。 世界でも類を見ない多素材使いによる「交編」の技術を持ち、 その素材開発から生産までを自社工場内で一貫しておこなっている。自社ブランドCOOHEM(コーヘン)とOEM、 ODM 生産の 企画・生産・販売を手掛けている。
http://yonetomi.co.jp



COOHEM ―コーヘン―
COOHEM(コーヘン)は「交編(こうへん)」に由来する造語で、山形県の老舗ニットメーカー米富繊維株式会社のファクトリーブランドとして 2010AUTUMN&WINTER よりスタート。「交編」とは、形状の異なる複数の素材を組み合わせて編み立て、まったく新しい素材を産み出す技術を指し、「COOHEM」はこうして誕生したニットツゥイードと呼ばれる独自のテキスタイルを用い、まったく新しいトラディショナルウェアを表現している。高度な解析を要するプログラミングと、色や素材を組み合わせるクリエイションの融合。そして技術と経験を兼ね備えたベテランと豊かな感性と想像力を携えた若手、それぞれの職人が融合して挑む新しいモノづくり。表情も着心地も、より良く新しく、鮮やかでファンシーに。すべての工程が一箇所で完結する希少なファクトリーから、日本のモノづくりカルチャーを世界に発信している。2017 AUTUMN&WINTER よりメンズコレクションもスタート。
https://www.coohem.jp/


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