INTERVIEW

パスザバトンがスーパーマーケットを企画したら?
新企画の舞台裏から考えるもうひとつの商流とは




2021年10月9日・10日に開催された『PASS THE BATON MARKET Vol.5』。「日本の倉庫を空っぽにしよう!」というテーマのもと、会場には全国からテーマに共感してくださった52のブランドが集まり、来場者数は2日間で5,000人を超え、盛況のうちに終えることができました。会場はコクヨ東京品川オフィス「THE CAMPUS」です。Vol.5ではインテリアの特集エリアを拡大、さらに新企画として食にフィーチャーした『パスザバトンの食料品店』を展開しました。「賞味期限が近いけど、まだまだおいしい」食品や「規格外品だけど、おいしさだって規格外」な野菜や果物などが大集合。



今回は『パスザバトンの食料品店』の実現における立役者にスポットライトをあて、その舞台裏に迫ります。これまでアパレルや雑貨などのアイテムを扱ってきたパスザバトンが、なぜ食料品なのか?お客様にあえて言わないと決めたこととは?新企画の仕掛け人であるスマイルズ・パスザバトン事業部長の箕浦俊太さんと、『旬八青果店』を出展いただいた株式会社アグリゲート代表取締役CEOの左今克憲さんによる対談をお届けします。



 

左今克憲さん プロフィール

1982年生まれ。東京農工大学農学部卒業後、食農領域で起業することを視野に入れ、幅広い業界を俯瞰して学びつつ営業経験を積むため総合人材サービスの株式会社インテリジェンス(現パーソル)に入社。2009年にアグリゲートを個人事業として創業(2010年1月から株式会社化)し、農業生産法人の営業代行や、スーパーマーケット青果部門の業務委託などを通じ、業界慣行や流通構造理解に努める。2013年10月都市型八百屋「旬八青果店」の運営を開始。「未来に“おいしい”をつなぐインフラの創造」をミッションに掲げ、旬八青果店を起点としたSPF事業(仕入・物流・製造・販売事業)、HR(人材育成)事業、PR事業を行う。

 


 違和感を見つめながら進んだ食料品店企画


――さっそくですが、パスザバトンが食料品店を企画したきっかけは?




パスザバトン事業部長の箕浦俊太さん

箕浦:パスザバトンでは表参道のギャラリーで10年以上アパレルやファッション雑貨を扱ってきてました。店舗を運営していくなかで、B品やデッドストック品の存在や既存の商流では流通させることができず倉庫に眠らせざるを得ないモノたちの存在に気付きました。店舗のギャラリースペースでもこういった企画はやってきましたが、規模を求めてお店の外に飛び出したのが2019年にスタートしたPASS THE BATON MARKETです。




箕浦:Vol4となる前回は、全国からテーマに共感した出展者が集いました。そこで青山フラワーマーケットさんが出店してくださったんですが、アパレル以外の業種業態でも同じように悩み事を抱えているんですよね。 前回は食料品についても会場内にフードエリアを展開しましたが、そこで出展してくださった企業さんとお話をする中で、われわれが想像していなかった食の業界ならではの課題などについても気づきがありました。また、純粋に「パスザバトンがスーパーマーケットをやったらどうなるか?」という視点にワクワクする!と感じて、企画をスタートさせました。




開場の瞬間を待ちながら、次々と陳列されていく野菜や調味料などの商品たち。

箕浦:とはいえ、フードロスや規格外品など食にまつわるモノづくりや商流、業界慣習についてなど取り巻く状況を正しく把握しきれていない中で、安易に何かを発信するのは違うな、と悩んでいたのも事実です。パスザバトンマーケットでどう表現し、参加者とコミュニケーションしていくのか。そこで相談に乗ってもらったのがアグリゲートの左今さんです。





――初出店とのことで、いかがでしたか。


左今:お客様が入場料を払って来る理由が分かります。2日目は家族と参加したのですが、本当に始まった時は楽しくて終わる時が寂しい。他の出展者さんを見ていて、社会科見学のような体験でした。しかも5,000名以上いらっしゃったんですよね。こんなに興味があって、テーマに共感してくださるお客様がいることにびっくりしました。




――旬八青果店は食料品店を企画するうえで欠かせない存在だったと伺っています。出店のきっかけについて教えてください。


左今:ありがとうございます。旬八青果店は2013年10月に1店舗目をオープンして、現在は8店舗を運営をしてます。マーケットのような催事についても一時期は積極的に参加していましたが、最近は慎重に検討して回数をかなり減らしていました。そういった中、スマイルズさんから今回の催事出店に関してのご連絡をいただきました。できることなら参加したい!と思う反面、あまりにも方向性が違ったらご一緒できないかも、と考えていました。


――参加の決め手になったエピソードはありますか。


左今:最初にこの食料品店のコンセプトについて2回ミーティングを行ったのですが、それってなかなか珍しいので、すごいなと。箕浦さんと話せば話すほど、真剣に食の課題に向き合おうとしているがゆえに悩んでいる様子を拝見し、とても信頼できて参加したいと思えました。箕浦さんは「規格外だからお買い得です」とか「余っていて困ってます、だから買ってください」みたいなプロモーションに違和感を持っていることに共感してくれて。おそらく“困ってる人を助けてます”というコミュニケーションは売りやすいのは分かりますが、実際はそう簡単な話ではありません。





左今:箕浦さんは複雑な事情が絡み合うなかで、このミュニケーションが成り立ってしまう状況に違和感を持ってくれました。2回の打ち合わせを通じて、私たちが大事にしている本質的な部分を理解しあえていると感じ、その上で一緒に取り組みたいと言っていただけるならばぜひご一緒させていただきたいと思いました。

箕浦:ありがとうございます。すでに旬八青果店さんは、パスザバトンマーケットが目指す食料品の在り方を実践されています。サプライの話からそれぞれの農家さんで起きていること、業界を取り巻く状況などを教えてもらいながら、どう表現していくかを悩んだ2回でしたね。旬八青果店なくして、今回の新企画『パスザバトンの食料品店』は実現できませんでした。
 対立構造の対岸にあるもうひとつのスーパーマーケット


――通常の旬八青果店の店舗では、どのように仕入れられていますか。


左今:青果市場に行けば相当な数が揃っているので青果市場だけでも仕入れが完結できるようになっています。一方で、産地を回っていると、おいしいのに規格にあてはまらない、そもそも新しい品種だから認知されていない、等の理由で都市に流通していない青果を見かけることも多々あります。旬八ではそういった青果をどうやったら都市にお値打ちな状態で運べるか試行錯誤し、店頭では理由をしっかり説明して販売します。そうすることでお客様には美味しい青果をお値打ち価格で提供でき、生産者さんにはあらたな収入が生まれる。お客様からはよく「すぐ食べるから味がよければ見た目は気にしてないよ」というお声をいただきますが、利用シーンによっては味はもちろん形も整ったものが欲しい場合もあると思いますのでバランスを取りながら仕入をしております。


旬八青果店の店頭では産地や生産者さんのこと、規格外品であっても確かな美味しさと品質を伝えながら販売されています。

左今:産地に足を運んで、生産者さんにお客様がどのように購入に至るのか、どんな状態で運ぶのか、生産者さんによっては規格外品を買いたいという申し出に対して「本当に売れるのか」「こんな形の悪いもの売りたくない」と仰る方もいらっしゃるので、きちんと価値をお伝えして仕入れされてもらっています。もちろん美味しいことは大前提です。今は青果以外も肉、魚の取扱いや、自分たちが仕入れている野菜とお米を使ったお弁当も販売しています。


――独自の仕入れルートがあるのですね。マーケットでは『パスザバトンの食料品店』の5つの指針がありますが、特徴的なラインナップを教えてください。



左今:例えばじゃがいも。多くのスーパーに並ぶのは剥きやすいM〜Lサイズで、中心等級と言われます。もちろんSサイズやもっと小さいサイズも採れますが、通常スーパーには並びづらい規格外品のためお値打ちになったりするんですよ。皮ごと食べれて美味しいので、あえてたくさん並べさせてもらいました。





箕浦:個人的には梨が印象的でした。正規品と規格外品をあえて隣同士に並べてられていましたよね。市場のかたちを取りながら、生活者の方々にちゃんと選択肢を提示できて、ストレートだけど本質的なコミュニケーションだと思いました。

左今:黒い斑点があるだけで中身は正規品と同じおいしさです。お客様もすぐに召し上がるご自宅用には見た目は気にしないという方も多いので、まずはお手頃な価格の規格外品でお試しいただき、気に入っていただけたら贈答用に正規品を購入しようというような形で、お客様にとっての選択肢があることが大切だと考えて両方を並べました。






――規格外品にも光をあててちゃんと価値を届けられているんですね。箕浦さんは『パスザバトンの食料品店』を2日間見てどう感じましたか。


箕浦:実際にやってみて気づいたのは、通常のスーパーマーケットは何も伝えなくても買えるようになっているんですよね。逆に僕らはその対比を目指して、説明しないと売れないという売り場づくりでもいいのかも。


――お二人が課題に感じていることは?


左今:そうですね。僕が旬八青果店をはじめるときにインスパイアされたのが、ニューヨークで訪れたホールフーズ・マーケット。そこで見た光景が鮮烈でした。お客さんがこんもり積み上げられた野菜や果物をどんどん上から取って、カゴに入れていくんです。日本だと実際に商品を触って見て戻してを繰り返しながら、よりよいと思うものを探す光景を見ませんか?実はその間に傷んでしまうということもあるんですよね。基本的には、果物であれば糖度計で計測し一定の甘さ以上のもの、つまり同じおいしさのものが並んでいるのでどれをとっても一緒だったりします。そういったこともお客様とのコミュニケーションの中でお伝えしていければと思っています。


――言われてみれば規格品であれば説明がなくても、わざわざ触って確認することもないですね。


箕浦:本当は説明がなくても上から取って買えるのは規格による恩恵ですね。規格が悪いとか、規格外品が正義といった対立構造の問題ではなく、ひとつの選択肢を届ける旬八さんのようなプレイヤーがまだまだ少ないのだと思います。

左今:「規格外」がスポットライトを浴びる事は良い傾向だと思うのですが、「規格」にはまっている商品の評価が歪まないようにどちらも扱っていき、多くの方が体験から理解出来る場を作っていきたいです。生活者の選択肢と一緒に、食品に対する理解が広がっていくといいなと思います。

箕浦:僕らの役割は規格外品やB品になったら終わりじゃなくて、美味しさや品質を大前提に、もうひとつの商流をちゃんとつくること。これからも一緒に取り組んでいけたら嬉しいです!








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