Interview

Origami CEO康井義貴×聞き手 遠山正道 スペシャル対談
「eコマース、その先にあるものは?」


PASS THE BATONも参加しているスマートフォンアプリ「Origami」。現在では、数千を超えるショップが参加し、日々多くのユーザーがショッピングやコミュニケーションを楽しんでいます。

ここでは、「Origami」CEOの康井義貴氏に「Origami」の活用法や、2015年10月に新たにスタートした決済システムについて、9月に移転したばかりの新オフィスにお邪魔してお話を伺いました。


遠山正道(以下T):康井さんとは、最初どこで会ったんでしたっけ?

康井義貴(以下Y):共通の知人の方に紹介していただいて、それから食事に誘っていただいたんですよね?

T : 初めて会った頃は、日本の事あんまり知らない感じで、PASS THE BATONの事も知らなかったんでしたっけ?

Y : PASS THE BATONは、表参道のお店には一回行ったことがあって知っていました。

T : その時に、「Origami」の話を聞いたんでしたよね。今はPASS THE BATONも「Origami」に参加させていただいていますが、今日は、我々も含めてPASS THE BATONユーザーやその他の方々にもわかるように、改めて「Origami」についてご指南いただきつつ、今後のお話もできればと思っていますので、よろしくお願いします!

Y : はい、こちらこそよろしくお願いします!


-「Origami」と今までのeコマースとの違いは?

Y : 新たなサービスについて10月1日にリリースを出したのですが、それについては後ほど触れるとして…。「Origami」は、2年半くらい前にサービスがスタートして、スマートフォンでのオンラインショッピングに特化したプラットフォームを提供してきました。言い方によっては百貨店とかそういうものに近いですね、色々なお客さまが、毎日来て買い物を楽しんでくださっていて、ショップ数は数千まで増えてきました。モバイルが出てきてショッピングの仕方が変わったんですよね。今までは、欲しいものがあってそれを探す(検索)というやり方でしたが、モバイルは全然質が違うデヴァイスで、隙間時間をいかに埋めるか、移動中などに時間をどう消費するか、と意識せずに使っている人がすごく多くて、電車の中でも10人中9人が触っているような時代です。このようにモバイルが浸透していくにつれて、今までの目的買い→衝動買いになってきたんですよね。

T : 実際に衝動買い需要は増えてきてるわけですね?

Y : はい、増えてますね。「Origami」を創業した当初は、モバイルで本当に皆が物なんて買うのか?と言われていたんですが、今、大手のプラットフォームでも半分以上の購入がモバイルから来ているんです。モバイル比率がどんどん大きくなってきています。そんな文脈の中で、より本質的に何が大事になってくるかを考え、お客さまが検索して自ら商品を探しに行くという状況ではなくて、お客さまとお店をもっと近くしていく、両者を結んでいくプラットフォームを「Origami」でつくってきました。今までは一方通行(自動販売機のように商品を陳列して、お客さまがただそれを選ぶ)だったのが、お店側からフォロワーであるお客さまに情報提供出来るようになって、それに反応して衝動買いできるような仕組みになってきました。




T : 「Origami」の中でどういう風に、今お話しいただいたような流れ(衝動買い)に展開していく感じなんですか?

Y : 見ていただくのが一番わかりやすいと思うのですが(自身のスマホのOrigamiアプリを見せながら説明)、「Origami」の中で、自分好みのショップや好みが合う友達(人)をフォローしていくと、自分のネットワークが出来ていって、僕はスニーカーが好きなので、スニーカーやさんを沢山フォローしているんですが、人によってはそれがインテリアだったり、アクセサリーだったり、そうすると、ショップや友達の最新情報がどんどん上がってくるので、その中で気になる商品があれば「購入する」ボタンを押すとそのまま購入できるという仕組みです。それだけではなくて、欲しいモノが具体的に決まっていなくても気になるワードやアイテムや価格で探していくと、今「Origami」で人気の商品が沢山出てくるので、そこから気になる商品を見つけて、さらにそれを扱っているショップの他の商品も見てみてという、いわゆる街中でするウィンドーショッピングのような、偶発的な買い物に近い体験をすることもできるようになっています。

T : なるほど。

Y : そんなような仕組みをこの2年をかけてつくってきました。

ただ単に価格を比較して買うのでなく 、「Origami」は、自分の趣味や好みでショップやブランドと繋がっていきたいという顧客に対して、直接アプローチが出来る仕組みがあるので、今まで他のプラットフォームには出店していなかったブランドやショップに出店いただけている状況だと思います。ファンの大きいベースが出来てきているので、人気のショップは20万人を超えるフォロワーがいます。


-「Origami」が提案する決済サービス、そのメリットは?



T : 実際にこの2年で売上も伸びてきているんですか?

Y : とても伸びてますね。ショップによっては自社のウェブサイトよりも「Origami」での売上が大きいというところも増えてきています。コアなファンは自社ウェブサイトをチェックしていても、そうではない人はウェブサイトをマメにチェックすることは少なく、だけど「Origami」には日常的にアクセスしていたりするので、こういう現象があるのだと思います。「Origami」には自分の好きなものが集まっていると知っているので、そこに行けば何かしら好きなモノが見つかる、という期待感だと思います。一度買い物をした方の満足度が高いので、リピート率がとても高いのも特徴です。これは「Origami」のB(Business)とC(Consumer)の繋がりを意識したサービスの特徴の表れだと思います。 そしていよいよ、決済分野に参入します。色々なショップで売上が伸びてきて、今度はもっと本質的に、ショップと消費者を近づけるサービスを提供しよう、と。スマホがあれば電車の中はもちろん、どこに行ってもモノが買える、これが店頭でもモノが買えたらどうだろう?その場に既に在庫があって、eコマースの仕組みを使って実店舗で買い物ができたら?「Origami」決済として、「Origami」からもショップからも特典が受けられるようにして、お客さまに店頭で他の決済方法と「Origami」決済のどちらかを選んでいただきます。つまり、現金と競争するサービスを今後提供していきます。

T : より早い対応が求められているサービスの場合は、現金やクレジットより早くて良いという事もありますよね?

Y : 既にベータ版として様々な店舗に「Origami」決済を導入いただいていますが、カードを通してレシートが出てきてサインして、という時間に比べると、スマートフォンでQRコードをスキャンするだけで決済できてしまう「Origami」の方が現状早いです。 もっと先の話をすると、スキャンしなくても決済できる方法等も開発中で、スキャンしなくても感知して決済できる仕様の提供が始まれば、更に早くなります。

T : へー、すごいですね。ユーザー側に認識があれば、レジに並んでいる時点で「Origami」を開いておけば、さらに早いですもんね。

Y : お店側もスタンプカードなどを全てデジタルにでき、メルマガ等の代わりになる顧客接点を持てる、というメリットがあります。 今、小売りの世界で何が起きているかというと、‘O2O(online to offline)’と言って、オフラインとネット上をどう繋げるかという事が大きな関心事です。お客さまのデータがなにより大切でマーケティングはしたいけれど、実際にどのくらいデータが取れているかというと、顧客名簿やスタンプカード、ハウスカード(自社カード)を中心に、買い物しているお客さまの10%程度のデータしか取れていないケースが多いようです。仮に10,000人のお客さまがいたとして1,000人のデータを取得し、その1,000人にメールを送ってもメールを開くのはさらに10%の100人が開いて、実際にリンクをクリックして情報を開くのはさらにその一部で、そのうち購入に至っているのは数人という現実なんです。なぜこんなことが起きているかというと、何らか商品を購入したお客さまに対して、顧客カードに住所や名前、電話番号、メールアドレスを書いてと言っても書いていただけない事の方が多くて、結局店頭ではデータが取れないからなんですよね。 9割以上の人がスマホを持って来店しているのに、貝殻(現金)で物々交換しているからデータのやり取りがまったくない。スマホを使って決済できるようにすると、お客さまにとっては安くモノが買える、お店にとっては顧客情報を得る機会にもなりますよね。そうすると、購入してくれたお客さまに購入した商品に関する情報や新商品入荷情報を送ることもできたり、お店の近くにいるお客さまに向けて、そのタイミングで行っているイベント情報を送ることもできたりします。 なので、一番の本質は‘決済’そのものではなくて、お店と顧客をものすごく近くする(繋げる)ツールとしての‘決済’という事なんです。




T : 「Origami」自体のブランドイメージもいいので、店側と「Origami」も肌感覚が合う(センスが共有できる)というところでセレクトされている部分もありますよね?

Y : そうですね、実際に決済サービスを実施してもらう店舗には「Origami」のステッカーを貼ってもらっているのですが、デザインも含めて喜んで受け入れてくれるところが多いですね。

T : 決済サービスは、具体的にはいつからスタートするんですか?

Y : 10月1日にプレスリリースを出して、いわゆるベータ版(テスト版)がスタートしていて、水面下では約100店舗で稼働しはじめていて、今は徐々に店舗を増やしている状況です。 来年に正式なサービスローンチをしていく予定です。

T : では、現在は本格的な導入に向けて、色々な店舗が入っている各デヴェロッパーさんとも話をすすめているような状況なんですね?商業施設にとっても良い話ですもんね?

Y : はい、各担当者がそれぞれ話を進めています。実店舗を活用してお客さまとのオンラインでの接点が増えるので、皆さん好感触です。

T : ユーザー側の視点で言うと、この決済システムを利用するには「Origami」のアカウントを持っている事が条件になりますよね?

Y : 現状ではそうですね。ですが、将来的にはそうでなくても使用できるように開発を進めていて、全方位で使えるようにしたいと思っています。

T : そういえば、前に話をした時に、その人物がそこにいることを認識して、それで決済できるとか、そんな話をしてませんでしたっけ?

Y : はい、たとえばお店に行って買いたい商品をレジに持っていって購入するときに、「康井です。」と名前を告げるだけで、決済できてしまうとかっていう方法も技術的には可能になっているんですが、日本だと名前で認識っていうのが色々な意味でフィットしなそうなので、単純にQRコードやBluetoothを使用した方が合うと思っています。「Origami」では世界中からエンジニアを採用し、そうした実験を日々行っています。

T : このオフィスに技術者が常駐して、そういう開発が日々行われているんですか?

Y : そうです。(ガラス越しにオフィス中央を指さして)あのあたりのモニターが並んでいるデスクにいる人たちは、みんなそうですね。

T : このオフィス、本当にステキですよね。素晴らしいところが見つかりましたよね。

Y : 色々な人に来てもらいやすいという立地も重視しました。




-「Origami」を立ち上げたその思いとは?

Y : 「Origami」としては、ようやく0(ゼロ)章が終わって、これから1章のスタートというところですね。元々、決済事業、金融のインフラを造るために立ち上げた会社です。お店と顧客のIDをつくって、eコマースでそれを繋ぐ、というプラットフォームをつくり、ようやくその土台が出来てきたので、それを最大限に活用して、リアルショップでも「Origami」をお財布代わりに買い物ができるという展開にこれから進みます。

T : 康井さんは、海外の生活も長かったですよね?アメリカの方がマーケットも大きくて、本当ならアメリカで起業という方が自然だったんではないですか?どうして日本で起業しようと思ったんですか?

Y : 私は、シリコンバレーのベンチャーキャピタルでベンチャー企業への投資業をしていたので、今と逆の立場でした。若い企業を見つけてその企業が大きくなるように投資をする、という仕事をしていました。その当時、中国やアメリカの会社に投資する案件は多々あっても、日本企業への投資案件が少なく、はがゆい思いがありました。かつては、三菱地所がロックフェラーセンターを買収したとか、SONYとかTOYOTA、HONDAとか、様々な会社がグローバルカンパニーとして活躍していったのに、この10~20年を見ていると、一番イノベーションが起きるはずの日本が強かったテクノロジーの分野で殆んど出てきていないんですよね。そういう状況を見ていて、 日本で何かやりたいなという思いが膨らんでいきました。評論家気取りで「日本はだめだよね。」とか言うのではなくて、自分でやれる事をやってみたい、単純に挑戦したい、っていう気持ちがありました。

T : 資金集めも何回かに分けて行ったんですか?

Y : そうですね、この2年で数回に分けてソフトバンクさんや、KDDIさんをはじめ、数社から投資をしていただいて、20数億円の資金調達を行いました。




T : やりたいことができるようになってきた状況ですか?

Y : 「Origami」は、広告に大金を使う戦略はとっていないのですが、インフラをつくるためには、やはり資金が必要で、チームもより大きくしていかなければ、と思っています。

T : 康井さんの醸し出すムードや、このビジネスに関わっている人たちを見ていると、今聞いているようなマクロなビジネスのイメージとは、良い意味で一線を画していますよね。

Y : 「楽しいな。」と思う人が、たまたま周りに多かったんですよね。

T : 元々、デザインとかアートとか好きだったんですよね?

Y : そうですね、 ファッションビジネスをやりたい、とかそういう事では全然ないのですが、個人的に、デザインにはとても興味があります。


-「Origami」がつなぐものとは?



Y : 「Origami」で、PASS THE BAOTNと一緒に出来たらいいな、と思っていることがあって…。店頭での決済サービスが始まるので、店頭のお客さまとのより深い接点をつくるお手伝いができたらいいな、と思っています。たまたまPASS THE BATONを見つけるとか、検索して見つけるとなると、やはり数が限られてしまうと思うんですよね。でも、せっかく素晴らしいものを扱っているお店なので、もっと新しい偶発的な出会いを提供出来たらなと思うんですよね。

T : 入口が増えるのは、店側としてはすごくありがたいですよね。

Y : 「Origami」には、面白い店やブランド、カッコいいものとか気が利いたものがないかな、と探している人たちが集まっているので、その中でPASS THE BATONを知らなかった人たちが、「Origami」上でPASS THE BATONの商品(たとえば美しい器とか)を見つけて、そこから興味を持ってオンラインで買い物をしたとして、その人に「次は店頭でこんなサービスが受けられますよ。」と案内する事が出来たり…。実際にそのお客さまが店頭に買い物に来た時に、今までであれば、オンラインとオフラインの顧客情報は共有できなかったので、「初めまして」になってしまっていたのですが、「Origami」ではお客さまの情報が一元管理されるので、1度でもオンラインかオフラインで購入したお客さまには、オンラインでも店頭でも同じサービスが受けれるようになるんです。

T : そういうサービスが広がって、より多くのお客さまに知っていただけるのは、すごくいいですよね。




Y : 1点ものだと特に実際に触ってみたいですよね、「Origami」はオンラインとオフラインが繋がっているサービスなので、例えばお店の地図が出てきて、位置情報も出てきて、実際に足を運んで、オンラインで発見してオフラインで購入する、というような流れもありえます。 普通、ネットで購入してもらいたい場合、こういう方法はあまり好まないんですけど、「Origami」は決済事業も展開していくので、オンラインで発見してオフラインで購入してもらえれば良いと考えており、送客にも一役買えると思っています。 今までは、オンラインVSオフラインみたいなのがありましたけど、同じお客さまで同じお店なので、それはナンセンスだと思っています。

T : 店頭に送客するというアイディアは面白いですね。ポイントとか割引とかも「Origami」だとスマートに出来そうですよね。

Y : 「Origami」では‘ショップ特典プログラム’を提供していて、ショップごとの購入金額によってお客さまのランクが上がっていくサービスが受けられます。これを使って、ランクに応じてイベントを企画したり、というような事もできます。

T : 今の話を聞いていて、PASS THE BATONでもその仕組みをうまく使って、出品者へ売上の支払いをポイント制にして、またお店で使っていただけるような特典をつくれたらいいな、と思いました。まだ想像だけですが、そうすると、もっとお客さまに還元できるのではないかなと。そのポイントもプレゼントできたりとか・・・。まあ、先の話ですが・・・。




T : PASS THE BATONはイベントも良くやっているので、お店の近くにいるお客さまにそんな情報も送ったりできたら、すごくいいですね。

Y : はい、「Origami」とPASS THE BATONはすごく相性が良いと思います。 今は、ほとんどのコミュニケーションがメールよりチャットになっていて、個人間だとそれが当たり前なんですが、今は開封率がさがっているにも関わらずお店と顧客になるとそのコミュニケーションが全部メールになってしまうので、「Origami」はそこのコミュニケーションをもっとライトにしていきたいな、と思っています。

T : PASS THE BATONがやっている出品者と購入者のメッセージをつなぐ「思いのバトン」というのがあるんですが・・・。

Y : すごく、ヒューマンでいいですよね。

T : そのコミュニケーションも、今は紙とメールですが、そういうかたちでやっていけたら、もっとコミュニケーションが活発になるんじゃないかという気がしますね。 PASS THE BATONでも「Origami」をもっと活用して、お客さまとのコミュニケーションを図っていきたいと思います。

Y : そうですね、ぜひ!きちんと発信してお客さまとコミュニケーションを取ることで、ファン(フォロワー)がどんどん増えていくと思います。



T : 今日は、康井さんも出品物をお持ちいただいているんですよね?

Y : ハイ、何が良いか迷いましたが、持ってきました。



康井義貴さんの出品物はコチラ↓
ベンチャーキャピタル投資家時代に買った眼鏡
Origamiを設立した頃に買った眼鏡

康井 義貴
Yoshiki Yasui

Origami(オリガミ)代表取締役CEO
1985年トロント生まれ。トロント、ニューヨークで幼少期を過ごし、10歳から東京に在住。シドニー大学留学、早稲田大学卒業後、米国大手投資銀行リーマン・ブラザーズでM&Aアドバイザリー業務に従事。その後、シリコンバレーの大手ベンチャーキャピタルDCM Venturesで米国、日本、中国のスタートアップへの投資を手掛ける。2012年、Origami(オリガミ)設立。
http://www.origami.co.jp


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