「住まい」のパスザバトンで、物語はつづく。
「ものが好きな、物好きのための理想の家」
好きを集めて、囲まれて。この冬、PASS THE BATONは、はじめてリノベーションマンションの一室をプロデュースしました。大和ハウスグループの株式会社コスモスイニシアとのリノベーションプロジェクトを通して見えた、PASS THE BATON的・空間やインテリアを再編集のあり方や、この住まいの見どころならぬ、住まいどころをご紹介していきます。
そんな問いをきっかけに、このプロジェクトは始まりました。今回は、株式会社コスモスイニシアの「INITIA & Renovation」とコラボレーションし、住まいの設計やインテリアの可能性を考えました。2009年にセレクトリサイクルショップとしてブランドが始まってからというもの、個人の思い出の品や、企業のB品・デッドストックなどに光を当て直す「リライト」を行ってきました。「衣」「食」には、長年深く関わってきましたが「住」において、直接的にアプローチをしていくのは今回がはじめてのことです。
コスモスイニシアさんからご相談いただいたお部屋は、東急世田谷線「世田谷」駅徒歩3分のマンション、コスモ世田谷の一室でした。世田谷区役所に程近い、穏やかな空気が流れる住宅街の中にある築26年のマンション物件のリノベーション。世田谷駅に近く、3面採光で陽の光がたっぷり入り、専有面積76.25㎡です。 今回のリノベーションコンセプトは、「ものが好きな、物好きのための理想の家」としました。これまで、ものと⼈が出会う場をつくりだしてきたPASS THE BATONだからこそ、工芸、アート、人形、本や器、植物など、住まう人が自分の好きな「もの」で、生活空間とその時間を満たせたらと考えました。ヨーロッパのアンティーク什器を埋め込んだ飾り棚を家の中心的存在とし、デッドストックタイルでつくられた窓台をつくりました。部屋の仕切りはできるだけ減らして、ガラス窓や段差でゆるやかに空間を仕切っています。
スタイリングのイメージ
たとえば、家で何気なく過ごす時間、ふと見上げた時に大好きなチェアとクッションがそこにある。旅先の蚤の市で見つけたラグがあって、学生の頃に勇気を出して買ったガラステーブルがそこにある。リビングから一歩歩いたところに、作り手や産地はわからないけれど気に入っている花瓶があり、生涯大事に読みたいと思っている本がそこにある。フラワーショップで偶然出会った、葉ぶりが好きな植物たちを窓台に並べて。ものが語りだす、自分だけが知っている物語と暮らしてみる。ミニマルというトレンドとは少し異なりつつも、マキシマルな愛で、有り余るものを愛でながら暮らしてみる。そんな豊かさも、ひとつの選択肢として作ってみたいと考えました。
「現代におけるリサイクルとは?」「B品・D品とは?」「倉庫の中で眠る品物とは?」。PASS THE BATONのこれまでの来し方を振り返ると、問いや素朴な疑問があります。それはあらゆるプロジェクトや、プロダクト開発においても同様です。今回も、まずはその背景として、日本の集合住宅における間取りを読み解きます。
工事過程の状態
60年代の団地に端を発した日本の集合住宅は、長らく合理性や効率性が優先される設計が中心だといわれてきました。その一例として、田の字型の間取りや、閉じた玄関 、動線を分断する開き戸といった特徴が、既存フォーマットとして多くの集合住宅に存在し、現在にもそのフォーマットが受け継がれています。今回、PASS THE BATONは、「当たり前」となっていたフォーマットや建材を、もう一度見直し、見立て直し、機能で分けられていた間取りを、より自由に曖昧にすることで、住まい方の選択肢をひとつ増やすことを試みます。
間取り BEFORE→AFTER (画像提供:株式会社コスモスイニシア)
リビングは、いわば部屋の中心地。玄関から廊下を抜けると大きく広がるリビングは、部屋の印象を大きく左右します。もともとの窓は生かしつつ、壁全面の飾り棚にはヨーロッパのアンティーク什器を埋め込んで、一つの空間に多層的な表情を持たせています。中央の棚のサイズは、テレビ台やアートパネルが置けるようなゆとりのあるサイズに。季節や気分にあわせて、ディスプレイを楽しめます。
スタイリングのイメージ
大きな横長窓につながる窓台には、多治見のデッドストックタイルを使いました。光を通すガラスブロックが印象的なもともとの壁とつながりつつ、クリーンなキャンバスのような印象をもたらします。
日当たりのいいこの場所は、読書やコーヒーで一服するときのベンチ代わりにもなり、アートやオブジェ、グリーンを育てたりする棚のようにもなります。使い方は、住まう人におまかせ。長く住む中で、その使い方にもひょっとしたら変化があるかもしれません。
やわらかな曲線を活かしたキッチンには、ダイニングに向かう形でカウンターをもうけました。キッチンはリビングよりも床を下げ、料理する人とテーブルに座る人の視線が自然に交わされるような構成にしています。カウンターキッチンの囲いには、テラゾーのように磨き上げたモルタルブロックを重ね、素材に別の表情を持たせました。ダイニングにS字型の段差を配置し、壁を造らずにゆるやかに空間の仕切りを作っています。
BEFORE:工事中の状態 → AFTER:住まい方のイメージ
扉を閉じるのではなく開き、空間を仕切るのではなく、つなげる。各所の開き戸を引き戸に置き換えることで、空間のロスを減らし、広がりを作りました。リビングと隣接するベッドルームも、ガラスの引き戸にすることで、気持ちの良い採光を活かしつつ、程よく空間を仕切りました。
BEFORE:工事中の状態 → AFTER:住まい方のイメージ
もともとこの家に住まわれていたのは、アメリカからいらしたあるご家族でした。思いのバトンとして、次の住まい手の方へお預かりしたメッセージをご紹介します。
I initially came to this home because of a desire to live in a quiet and residential neighborhood that was also conveniently located close to shopping and transportation hubs. It has now been 24 years since then, when it was originally built. What remains in my memory now is watching the sunrise in the morning and the moon in the evenings from my living room. Along with the dining room, it was my favorite place in the home where I enjoyed relaxing with my family after dinner. What I love about Setagaya is that there are so many beautiful temples and parks within walking distance of Cosmo Setagaya as well a small izakaya in Sangenjaya called Isogen (いそげん) on Suzuran Dori.
With retirement, I decided to let go of this home and move to the Japanese countryside. I hope the next residents can also enjoy some of my favorite parts of it like the lovely neighborhood and the walk along Karasuyamagawa Ryokugo all the way to Megurogawa during the cherry blossom period.
この家に住むようになったのは、静かな住宅地で、買い物や交通に便利な場所に住みたいという思いがあったから。約24年間、住みました。思い出として残っているのは、リビングルームから朝日が昇る様子や夜に月が昇る様子を眺めていたこと。家の中で一番好きだった場所はリビングダイニングで、そこで夕食後に家族とくつろぐことが好きでした。世田谷で好きだったのは、コスモ世田谷から歩いて行ける美しい寺院や公園がたくさんあること、そして三軒茶屋のすずらん通りにある小さな居酒屋「いそげん」です。 この家を手放すことにしたのは、退職後に日本の地方へ移住することにしたためです。 次に住む方には、この周辺を楽しみ、桜の時季には近くの烏山川緑道から目黒川まで歩いてみてくださいとお伝えしたいです。
次の住まい手によって、住まいの物語も続いていく。 ものが好きな、物好きなあなたへ。自分の理想の住まい方を見つけて、日々の生活をお楽しみください。
この住まいの販売情報は株式会社コスモスイニシアの下記リンクをご覧ください。
なお、物件売約次第、リンクは非公開となる場合がございます。予めご了承ください。
https://www.cigr.co.jp/pj/contents/renovation/detail/MCY004847/
※本物件の販売主は株式会社コスモスイニシアです。物件に関するお問い合わせは、上記リンクよりお願いいたします。
※本記事の写真・図面はイメージであり、掲載の家具・小物類は販売されません。
※仕様・設備・間取りは変更される場合があります。最新情報は販売主へご確認ください。
※本記事はPASS THE BATONによるプロジェクト紹介であり、契約に関するご質問にはお答えしかねます。
Photograph:Leo Arimoto
Edit : PASS THE BATON
「家を、自分にとって一番豊かな場所にするためには?」
そんな問いをきっかけに、このプロジェクトは始まりました。今回は、株式会社コスモスイニシアの「INITIA & Renovation」とコラボレーションし、住まいの設計やインテリアの可能性を考えました。2009年にセレクトリサイクルショップとしてブランドが始まってからというもの、個人の思い出の品や、企業のB品・デッドストックなどに光を当て直す「リライト」を行ってきました。「衣」「食」には、長年深く関わってきましたが「住」において、直接的にアプローチをしていくのは今回がはじめてのことです。
ものが好きな、物好きのための理想の家
コスモスイニシアさんからご相談いただいたお部屋は、東急世田谷線「世田谷」駅徒歩3分のマンション、コスモ世田谷の一室でした。世田谷区役所に程近い、穏やかな空気が流れる住宅街の中にある築26年のマンション物件のリノベーション。世田谷駅に近く、3面採光で陽の光がたっぷり入り、専有面積76.25㎡です。 今回のリノベーションコンセプトは、「ものが好きな、物好きのための理想の家」としました。これまで、ものと⼈が出会う場をつくりだしてきたPASS THE BATONだからこそ、工芸、アート、人形、本や器、植物など、住まう人が自分の好きな「もの」で、生活空間とその時間を満たせたらと考えました。ヨーロッパのアンティーク什器を埋め込んだ飾り棚を家の中心的存在とし、デッドストックタイルでつくられた窓台をつくりました。部屋の仕切りはできるだけ減らして、ガラス窓や段差でゆるやかに空間を仕切っています。
スタイリングのイメージ
たとえば、家で何気なく過ごす時間、ふと見上げた時に大好きなチェアとクッションがそこにある。旅先の蚤の市で見つけたラグがあって、学生の頃に勇気を出して買ったガラステーブルがそこにある。リビングから一歩歩いたところに、作り手や産地はわからないけれど気に入っている花瓶があり、生涯大事に読みたいと思っている本がそこにある。フラワーショップで偶然出会った、葉ぶりが好きな植物たちを窓台に並べて。ものが語りだす、自分だけが知っている物語と暮らしてみる。ミニマルというトレンドとは少し異なりつつも、マキシマルな愛で、有り余るものを愛でながら暮らしてみる。そんな豊かさも、ひとつの選択肢として作ってみたいと考えました。
仕切りでなく、ゆるやかに。間取りの背景を読み解いて
「現代におけるリサイクルとは?」「B品・D品とは?」「倉庫の中で眠る品物とは?」。PASS THE BATONのこれまでの来し方を振り返ると、問いや素朴な疑問があります。それはあらゆるプロジェクトや、プロダクト開発においても同様です。今回も、まずはその背景として、日本の集合住宅における間取りを読み解きます。
工事過程の状態
60年代の団地に端を発した日本の集合住宅は、長らく合理性や効率性が優先される設計が中心だといわれてきました。その一例として、田の字型の間取りや、閉じた玄関 、動線を分断する開き戸といった特徴が、既存フォーマットとして多くの集合住宅に存在し、現在にもそのフォーマットが受け継がれています。今回、PASS THE BATONは、「当たり前」となっていたフォーマットや建材を、もう一度見直し、見立て直し、機能で分けられていた間取りを、より自由に曖昧にすることで、住まい方の選択肢をひとつ増やすことを試みます。
間取り BEFORE→AFTER (画像提供:株式会社コスモスイニシア)
好きを集めて、囲まれて。古今東西の質感がミックスされたリビング
リビングは、いわば部屋の中心地。玄関から廊下を抜けると大きく広がるリビングは、部屋の印象を大きく左右します。もともとの窓は生かしつつ、壁全面の飾り棚にはヨーロッパのアンティーク什器を埋め込んで、一つの空間に多層的な表情を持たせています。中央の棚のサイズは、テレビ台やアートパネルが置けるようなゆとりのあるサイズに。季節や気分にあわせて、ディスプレイを楽しめます。
スタイリングのイメージ
住む人に使い方を委ねた、デッドストックタイルの窓台
大きな横長窓につながる窓台には、多治見のデッドストックタイルを使いました。光を通すガラスブロックが印象的なもともとの壁とつながりつつ、クリーンなキャンバスのような印象をもたらします。
日当たりのいいこの場所は、読書やコーヒーで一服するときのベンチ代わりにもなり、アートやオブジェ、グリーンを育てたりする棚のようにもなります。使い方は、住まう人におまかせ。長く住む中で、その使い方にもひょっとしたら変化があるかもしれません。
人を招きたくなる、視線の開けたキッチン&ダイニング
やわらかな曲線を活かしたキッチンには、ダイニングに向かう形でカウンターをもうけました。キッチンはリビングよりも床を下げ、料理する人とテーブルに座る人の視線が自然に交わされるような構成にしています。カウンターキッチンの囲いには、テラゾーのように磨き上げたモルタルブロックを重ね、素材に別の表情を持たせました。ダイニングにS字型の段差を配置し、壁を造らずにゆるやかに空間の仕切りを作っています。
BEFORE:工事中の状態 → AFTER:住まい方のイメージ
扉の再考。空間のロスを減らして、広がりをつくる
扉を閉じるのではなく開き、空間を仕切るのではなく、つなげる。各所の開き戸を引き戸に置き換えることで、空間のロスを減らし、広がりを作りました。リビングと隣接するベッドルームも、ガラスの引き戸にすることで、気持ちの良い採光を活かしつつ、程よく空間を仕切りました。
BEFORE:工事中の状態 → AFTER:住まい方のイメージ
かつての住まい手からの、思いのバトン
もともとこの家に住まわれていたのは、アメリカからいらしたあるご家族でした。思いのバトンとして、次の住まい手の方へお預かりしたメッセージをご紹介します。
I initially came to this home because of a desire to live in a quiet and residential neighborhood that was also conveniently located close to shopping and transportation hubs. It has now been 24 years since then, when it was originally built. What remains in my memory now is watching the sunrise in the morning and the moon in the evenings from my living room. Along with the dining room, it was my favorite place in the home where I enjoyed relaxing with my family after dinner. What I love about Setagaya is that there are so many beautiful temples and parks within walking distance of Cosmo Setagaya as well a small izakaya in Sangenjaya called Isogen (いそげん) on Suzuran Dori.
With retirement, I decided to let go of this home and move to the Japanese countryside. I hope the next residents can also enjoy some of my favorite parts of it like the lovely neighborhood and the walk along Karasuyamagawa Ryokugo all the way to Megurogawa during the cherry blossom period.
この家に住むようになったのは、静かな住宅地で、買い物や交通に便利な場所に住みたいという思いがあったから。約24年間、住みました。思い出として残っているのは、リビングルームから朝日が昇る様子や夜に月が昇る様子を眺めていたこと。家の中で一番好きだった場所はリビングダイニングで、そこで夕食後に家族とくつろぐことが好きでした。世田谷で好きだったのは、コスモ世田谷から歩いて行ける美しい寺院や公園がたくさんあること、そして三軒茶屋のすずらん通りにある小さな居酒屋「いそげん」です。 この家を手放すことにしたのは、退職後に日本の地方へ移住することにしたためです。 次に住む方には、この周辺を楽しみ、桜の時季には近くの烏山川緑道から目黒川まで歩いてみてくださいとお伝えしたいです。
次の住まい手によって、住まいの物語も続いていく。 ものが好きな、物好きなあなたへ。自分の理想の住まい方を見つけて、日々の生活をお楽しみください。
この住まいの販売情報は株式会社コスモスイニシアの下記リンクをご覧ください。
なお、物件売約次第、リンクは非公開となる場合がございます。予めご了承ください。
https://www.cigr.co.jp/pj/contents/renovation/detail/MCY004847/
※本物件の販売主は株式会社コスモスイニシアです。物件に関するお問い合わせは、上記リンクよりお願いいたします。
※本記事の写真・図面はイメージであり、掲載の家具・小物類は販売されません。
※仕様・設備・間取りは変更される場合があります。最新情報は販売主へご確認ください。
※本記事はPASS THE BATONによるプロジェクト紹介であり、契約に関するご質問にはお答えしかねます。
Photograph:Leo Arimoto
Edit : PASS THE BATON