INTERVIEW

PASS THE BATONがマーケットで掲げたのは「リライト」。
あたたかい商流を目指して、光をあてたのは

大量にモノを作って消費していた時代から、世の中は目まぐるしく移り変わっています。サスティナブルやSDGsが求められるなか、これまで生産の過程で生まれたB品やデッドストック品、倉庫で眠っているモノには目を伏せても良いのでしょうか。

スマイルズが運営するセレクトリサイクルショップ『PASS THE BATON(パスザバトン)』による新しい取り組みとしてスタートしたイベント、『PASS THE BATON MARKET』。これまで企業やブランド、産地が抱えている“もったいない”や“困りごと”に向き合い、世の中に紹介していく場として2019年にはじまりました。第4回では「日本の倉庫を空っぽにしよう!」を合言葉に54の企業や産地、ブランドが集いました。





熱気に満ちたマーケットの二日間を振り返りながら、パスザバトン事業部長の箕浦俊太さんと発起人のスマイルズのCCO野崎亙さんにインタビュー。パスザバトンの視点から、モノをめぐる課題やマーケットで届ける意義、これからの消費のあり方に迫ります。



写真左:スマイルズのCCO野崎亙さん 写真右:パスザバトン事業部長の箕浦俊太さん


 お店からマーケットへ。
 ステージを変えた挑戦のワケ


――店舗を構える『パスザバトン』は、なぜマーケットイベントを開催されたのでしょうか。


箕浦:パスザバトンではモノにまつわる“困りごと”に向き合い、企業のB品やデッドストック、そうした素材を使ったリメイク品などを扱っています。大切にしているのは、買い手にはモノと一緒に思いのバトンを渡すこと。


パスザバトン表参道のストア


箕浦:とはいえ限られたスペースでは魅力を表現しきれず、お断りした企業もありました。“もったいない”を起点に困りごとの解消を掲げているのに、自分たち都合で向き合えていないブランドや産地もありました。自己反省も含めて、ここではやりきるぞ!と開催したのが2年前の蚤の市です。


2019年11月 京橋にて開催したパスザバトン マーケットVol.1


箕浦:外でパスザバトンを表現するのは初めてに近いなかで、お客様の熱気や出店者たちの反応を生で感じて手応えがありました。4回目のテーマは「日本の倉庫を空っぽにしよう」。まだまだ光を当てられていない、B品やデッドストックといった訳ありのモノたちが日本中の倉庫で眠っています。


――本当にからっぽになるものでしょうか?


箕浦:私がパスザバトンに関わって4年で一番心に残ったエピソードをお話させてください。以前、あまってしまった生地の端切れでプロダクトを作っていたメーカーさんとお付き合いがありました。ある日、メーカー担当の方がすごく申し訳なさそうな顔で、うちにいらしたんです。何だろうと思って聞くと「B反(生地の端切れ)がなくなってパスザバトンの商品を作れなくなりました」と。


――まさにパスザバトンが目指していた姿を予言するようなエピソードですね。


箕浦:はい。パスザバトンの事業としては売るモノがなくなって困るという自己矛盾はあれど、メーカーの抱えるB品や、それらが占めていた倉庫を空っぽにできたのはひとつ価値。世の中的にもSDGsやサーキュラーエコノミーといった理想があふれるなかで、企業はものづくりの変革を求められています。こうした社会背景をふまえて、向き合うべきは倉庫在庫という過去の遺産。そこにもう一度注力すると決めて、マーケットが本格的に始動しました。


――当日の盛り上がりを見ていると、本当に日本中の倉庫が空っぽになってしまいそうですね。


箕浦:私たちは倉庫を空っぽにしていって、いつかパスザバトンが必要ない社会を目指すのかもしれません。パスザバトンも違う形で共存できていればベストではありますが。







 マーケットの熱気の正体は?
 パスザバトンだから生み出せたのは


――気になるのは、他のB品市や、セールイベントとの違い。パスザバトンマーケットの特徴を教えてください。


箕浦:パスザバトンマーケットでは、モノをとりまく背景ごと伝えてもらっています。商品のPRだけでなく、なぜこの商品がB品になってしまうのか、なぜこのマーケットに並んでいるのか……。ものづくりをする立場だとB品やデッドストックが出たり、歩留まりがあって余るのは当たり前のこと。一方で生活者がこうした仕組みを知る気づく機会はありません。


――お店を飛び出し、イベント化にしたことのメリットはなんでしょう?


箕浦:売上や来客数といった面だけでなく、ショップスタッフとお客様という垣根を越えてフラットな関係性が生まれたことです。リアルな場の価値だけでなく、やはりイベント化の必要性はありました。






箕浦:私自身いち消費者として、経済合理性は一部正しいと思います。お客様が良いものを安く買えることは価値であり、その最たる例がアウトレットモール。ただ、アウトレットモールは特に安さの理由や、商品がきてしまった理由を伝えるための場所ではありません。


野崎:パスザバトンマーケットはいい意味で経済合理性を残しつつ、一歩を踏み込むきっかけになれたと思います。


箕浦:そういう意味で、私たちが目指しているのは経済合理性の向こう側。手に取るきっかけは安くてカワイイ!で良いんです。でも、お買い物をきっかけに、その消費活動がどんな世の中をつくるのか、生活者に気づきを与えられるのがマーケットならではだと思います。


――どうやってフラットな関係性や、コミュニケーションが生まれる空気感が生まれたのですか。


野崎:空間としては店よりはライトだけど蚤の市よりはハード。適度の緊張感も必要で、コクヨさんのTHE CAMPUSの空間があったからこそできました。





会場はコクヨ東京品川オフィスビルにて今年2月にリニューアルオープンした「THE CAMPUS」。コンセプトは街に開かれた、”みんなのワーク&ライフ開放区”


野崎:さらに、スマイルズが手掛けるイベントでは一番大切にしているのは、ソフト面の関係性づくり。一仲間として出店者さんたちとコミュニケーションを取って、全員が主催者になり、一人一人が自分事にすることでしか生まれないのがPTMBです。


箕浦:これはイベント企画のハウツーや、運営をマニュアル化して再現しようとしたら破綻してしまう。パスザバトンに関わるスタッフたちがとことんやり抜いてくれた結果だと思います。


――目に見える空間だけでなく、形に残らない空気感まで、パスザバトンがやるからこそ生まれるものですね。


野崎:在庫をただ消化するためのイベントではなくて、蚤の市ともアウトレットとも違う。あくまでもモノが誰かに思いを持ってバトンが渡されていくことを、どこまでも大切にしています。むしろ、思いが乗ってなければ意味がない。


箕浦:要は、今までの物売りのあり方ではない。私たちのミッションは生活者の方々に気付きを与えることで、パスザバトンだから来てくれる方と、その周りをどんどん増やしていかなきゃいけない。






 光をあてたかったのは、
 モノをとりまく流れ


野崎:モノをとりまく世界にある不都合な要素は、すでに多くの生活者が気づいていることです。例えば最近だと「エコバッグって本当にエコなの?」といった話題を耳にしたことがあると思います。リサイクルも魔法のつえではありません。


一回できたモノを新しいプロダクトのための素材に戻してから作ることは、余計なエネルギーかけることもあります。リサイクルが正しいかどうかは、ケース・バイ・ケース。パスザバトンでは近年、なるべく新しいプロダクトを作らず、今回のテーマでもあるリライトを強く意識しています。


――リライトですか?


野崎:今まであったモノに光の当て方を変えてみようよ。それだけで素敵になるかもしれないと。B品やデッドストックもなるべくそのままでいいんじゃないかと。中には価値が伝われば定価でもいい。






野崎:今もこれからも悩みのタネは、倉庫の中にだんだんたまっていく物たち。それらが適切なかたちで次の人に渡って、倉庫が空けば思い切ったモノを作ったり、あるいは新しいサーキュレーションについて一から考えたりできると思うんです。


――たしかに今のSDGs文脈は未来にベクトルが偏っていて、過去にためてきたものはなかったかのように感じます。


野崎:これまで経済効率性の名のもとに作り上げた産業構造の副産物として、倉庫の奥で眠れる資産が積み上がっているはず。あえて、思いっきり過去を振り返るのがパスザバトンマーケットのアプローチ。過去を見つめながら未来に対するヒントを探りたい。


――今までのことをなかったことにして、形だけのサスティナブルやSDGsの発信をするのは違和感があります。


野崎:極度なマーケティングが行き着いた先に何が起きたのか。一度売れないとどんどん怖くなって、みんなが似たようなものを作った結果、モノが余ってしまう。

誰かに売れると言われて作ったモノなんて、トレンドがされば無用の長物になるわけで。自分の意思や思いが乗ってなければ、どの市場にとっても価値がないんじゃないかな。






野崎:改めて自社の倉庫を見直すことは「自分たちはそもそも何をしたいのか」を突き詰めること。パスザバトンを含め生産者側の自戒を込めて、責任を持って誇れるモノづくりを大切にしたいですね。


――倉庫には作り手の存在意義が埋まっているのかもしれませんね。


野崎:パスザバトンも含め出店者全員に共通している唯一のことは「自分たちが作ったもの、仕入れたものが大好き」な気持ち。モノにも作った人にも罪はありません。



 光のもとで、
 冷たい商流からあたたかい商流へ


――これからパスザバトンマーケットがどんな企てをするのか楽しみです。


箕浦:本気で倉庫を空っぽにするし、倉庫に眠れるモノたちに光をあてる。近い未来だと、マーケットの規模拡大は目指したいです。あとは、パスザバトンマーケット“フード”や“ファニチャー”などテーマごとのマーケットも楽しそうですね。マーケットイベントは手段のひとつで、新しい可能性も模索していきたいです。



ディスプレイや店舗什器で使っていたイスや什器など、行き場がなく倉庫に眠っていたモノたち


野崎:B品や倉庫在庫だけでなく、光が当たってないもの、当て方がズレちゃってることってたくさんあります。パスザバトンが誰かに思いを届けるためにリライトするなら、今後はローカルもテーマになると思っています。



パスザバトンマーケット第2回は『十勝大百貨店』を開催


野崎:あらゆる企業が大手を振って出せるようになりたい。企業努力をしてもモノづくりをすれば出てしまうのは致し方ないことです。


――先程マーケットを仕組み化すると破綻してしまうという話がありました。日本の商流において、責任範囲を管理するために規定やルールが厳しくなっているのと似ていますね。


野崎:効率化の中で失われてきたことは否めませんし、冷たい商流が生まれてしまっているのかなと。「もったいない」と言いながら、賞味期限がギリギリだとクレームがつくといったジレンマは想像に難しくない。売り手側の誠実さを前提としながら、生活者が寛容になっていける世の中にしたいし、少なくともパスザバトンマーケットのときだけでも寛容であってほしくて。パスザバトンはあったかい商流でありたい。






――これからのモノをとりまく豊かさには、何が必要ですか?


野崎:これからの豊かさは正しさも備えることが求められます。でも、人は正しさよりも楽しさに心が動く。じゃあ、プロセス自体が面白くなれば楽しくて正しい。こんなおいしい話はありませんよ。


箕浦:モノを売る、買うときに「むしろこっちがいいじゃん」という空気に変わっていけば企業も思い切ったことができると思う。何よりもマーケットが終わって、出展者もスタッフもお客様もみんなが楽しかったねと、聞けたときが一番嬉しい。いやぁ、僕自身がむちゃくちゃ楽しかった。


――マーケットに心を動かされてますね。


野崎:これからの箕浦くんの企画にも乞うご期待!








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