INTERVIEW

鑑賞より完食?「タベツクスフルーツ展」を開いた東果堂の想い


華やかなフルーツケータリングを得意としつつ、エシカルフルーツを推進する世田谷の青果店「東果堂」。PASS THE BATON MARKETへの出展など、共鳴するところの多い彼らが、「タベツクスフルーツ展」という展示を開催しました。PASS THE BATONがプロデュースした本展を振り返りつつ、フルーツが持つ可能性や「エシカルフルーツ」を推進する理由を、代表の岩槻正康さん(写真左)、COOの鈴木亜由美さん(写真右)に伺いました。

―― PASS THE BATON MARKETでも、毎度アッと驚くようなフルーツをご用意いただいていますが、あらためて、東果堂さんについて、どんな青果店なのかを伺えますか?

岩槻:「美味しく 楽しく 余す事なく」 をスローガンに掲げて展開する、世田谷の若林にある青果店です。フルーツ専門店として、大田市場のベテラン仲卸と共に厳選したフルーツを、地域での店舗販売や、フルーツケータリングなど多様な形でお届けしています。もともと食の会社のWEB部門に従事していたのですが、食の面白さに惹かれて、社会人向けの飲食店スクールに通った時に、前職の青果店の代表と出会ったんです。僕自身お酒が好きだし、しょっぱいものが好きだったので「フルーツ」って近くて遠い存在。でも、その代表と出会ったことでフルーツに感動する機会に恵まれて、フルーツの目利きとして経験を積み、「独立するならフルーツ専門店で!」と、2020年に創業しました。

鈴木:私は前職でカフェなどを展開する飲食総合カンパニーに勤めていて、2016年、最後に担当していたのがフルーツ特化のカフェ業態でした。商品開発や店舗運営を含めての現場マネージャーとして働いていたのですが、そこで岩槻と出会い、創業準備から一緒に進めてきました。



―― フルーツの目利きとしてキャリアを重ねてきた岩槻さんと、飲食現場でのあらゆる部分を率いてきた鈴木さん。ケータリング現場での、お二人のパワフルさの理由が分かった気がします。一言でいうと、東果堂は一般的な「青果店」とはどこがちがうんでしょう?

岩槻:「ふつうの青果店」を定義するならば、「小売店」になると思います。店に商品を置いて売る。東果堂の場合は、外に出ていく。お客様の口に、フルーツを届けていくためにもう一歩踏み出していくことを大事にしています。なぜかといえば、食べたことないものを人はなかなか買えないからです。食べてもらって、体感してもらってはじめて、お客様が買いたくなると思うんです。だから、小売りもするし、ケータリングもする。さらに、フルーツは消費期限が短いので、ジュースやドライフルーツに加工する。そして、最後に残るフルーツの皮や芯を土に戻す。どれも自分たちのできる範囲にはなりますが、そうした取り組みをしています。


鈴木:店舗には、地域のお客様がメインでいらしていて、保育園の帰り道にお母さんとお子さんが一緒に立ち寄ってくれたり、好奇心旺盛な若いお客様が来てくれたりします。ケータリングでは、ファッション誌の撮影の現場や楽屋、オフィス需要も最近では高まっています。外資系企業での朝のMTGのためのご用意や、国内企業だと歓送迎会、日常的なおやつや軽食として、リクエストいただいています。

―― そんな東果堂がフルーツを選ぶ際のポイントは?

岩槻:信頼する仲卸さんや農家さんとの関係性の中で厳選しているのはもちろんですが、一つひとつの面白さやワクワクがあるかどうかを大切にしています。そして、シンプルに僕自身が一生活者として感動するか。それがないと僕自身が介在する理由がないんですよね。

鈴木:個人的には蘊蓄(うんちく)ばかり喋っても、しょうがないと思っていて。結局、一口食べて「おいしい!」のほうがテンションあがるんですよね。私はいつもお客さんの好みを聞いてから、おすすめをはじめます。どれもおいしいのは当たり前だけど。お客さんの期待値を探して、それを上回る提案がしたいんです。

―― 生産者さんと直接取引をされることも多いと思いますが、今生産者さんたちはどんなことに困っているんでしょうか?

岩槻:マクロな話からすると、生のフルーツが売れなくなっています。厚生労働省「国民健康・栄養調査」によれば、2018年の1人1日当たりの果実摂取量は96.7gで、消費のピークとされる70年代、最も多かった75年の193.5gから半減しています。バブル時代に「嗜好品」としての文化が育った結果、バブル以降も「日常食」として定着しないまま、今の時代につながっているんです。あとは、やはり気候条件との戦いですね。例えば、6月に雹(ひょう)が降った山形のラフランス農家さんから「雹被害による見た目の問題で、通常ルートにはのせれなくて」というお声があったり、西表島のパイプナップル農家さんから「味はおいしいのに、規格よりも小さなパイナップルになってしまって」というお声があったり。農家さんもそれらを加工したりとか、一生懸命工夫されているけれど、フルーツを育てるだけで手一杯な作り手さんはたくさんいらっしゃるんですね。だからこそ、そうした作り手さんからバトンを受け取って、お客様につなげるために僕たちがいるんです。フルーツは、熟度や鮮度など要素が多いので、目利きがいないと価値が伝わりにくいもののひとつだと思っていて。価値をちゃんと伝えられる人間が、お客様に伝えていかないとと思っています。

―― エシカルフルーツを推進されている東果堂さんですが、「規格外」って結局どういうものを指すのでしょうか。

岩槻:「規格外」という言葉自体は、売り手やメディア側が作ったものなのかなと推察しています。一般的にイメージされるのは、市場にある「販売規格」というもので糖度やサイズなどの規定のことですね。

鈴木:販売規格と一言でいっても、一般スーパー向け、道の駅向けなど販売チャネルや地点によって求められる基準は変わるので、そもそも、「こういうものはNG!」というのは、本来一概には言えないんです。しかも、販売規格以外にも加工規格などもあるので、産地側は販売できないものは加工に回すなど、上手に扱っているのが本当のところなんですよね。

岩槻:なので、世間一般でフードロス的な観点で言われる「規格外」のもとになっているのは、消費や流通過程におけるものがほとんど。作り手側に理由があるのでなく、そのあとの過程で生まれてくるロスといえます。僕らがエシカルフルーツを推進するのは、作る側でなく、売る側のロスを是正したいからなんです。東果堂の考える「エシカルフルーツ」は、自分たちの手の届く範囲で、生活者の方や物流の方を含めて、流通におけるロスや届きづらさを是正して、みんなで楽しく食べきっていこう!というものなんです。

―― 今回「タベツクスフルーツ展」を開催しようと思ったきっかけはなんでしょうか?

岩槻:大きくは二つあって、一つは「やっぱり、まずは食べてみてもらいたい」からです。どんなにおいしい商品をこちらがご用意しても、お客様に食べてみてもらわないと何も始まらない(笑)。二つ目は、PASS THE BATONチームと、こういう企画を一緒にやってみたかったからです。 実際、僕らの「とにかく食べてもらいたい!」というアイディアから、「タベツクスフルーツ展」というコンセプトが決まっていき、通常の展示で禁止されることの多い「場内の撮影」「作品に触れること」「作品を食べること」が許されるというキャッチーな展示になりました。

鈴木:来場者のみなさんも、最初の一口を食べるのにはすこし躊躇と言うか、ドキッとしていらっしゃいましたけど、一口食べてそこから手が止まらなくなる感じ、見ていて、よっしゃ!と思いました(笑)。



―― PASS THE BATONは、空間構成や展示ディレクション、各種デザインでお手伝いさせていただきました。とにかく、フルーツそのもののもつ生命力が会場の主役!という感じでしたね。

鈴木:そうですね。地下一階のメイン展示では、いつものケータリングスタイルの多様さを見ていただけたかなと思います。ラグジュアリーブランドから、子ども向けのイベント、オフィスでのイベントなど、質感やターゲットのちがう内容でも、フルーツって寄り添えるんですよね。一口サイズのフルーツや、フルーツサンドはもちろん、ドリンクやドライフルーツにすることで、味はおいしいのに一般流通が難しかったフルーツもご提供できるのがポイントです。



―― 会場1階では、岩槻さんによる「お刺身フルーツ」というコーナーも展開しましたが、これが成立するのは、一つひとつのフルーツの上質さがあってこそですね。

岩槻:まさに。これまでは出前みたいな感じでやっていたのですが、今回はお寿司屋さんのカウンターのようなイメージで「お刺身フルーツ」のご提供をしました。お刺身にすることで、一口に集中してもらえるので、フルーツのディティールを知ってもらえるんですよね。今回は、茨城県鉾田市の風早いちご園の「とちおとめ」、色が変わらない奇跡の林檎「千雪(ちゆき)」、日本一の甘さと名高い金柑「こん太」の3種類をご用意しましたが、板前さんみたいに、僕らの解説をつけることで、お客様からもう一歩進んだ感想をいただけました。

―― 最後に今回の展示を通して気付いたことや、今後の展望などを教えてください。

岩槻:僕たちが進めたいのは「#フルーツのある暮らし」なんです。フルーツ=嗜好品ではなく、もっと日常の中で、生活を豊かにしてくれるものであることをお伝えしていきたい。流通などの物理的な改善はもちろんですが、コミュニケーションや届け方、伝え方の面でもっとできることがあるはずなので、自分たちの出来る範囲でのエシカルフルーツを模索していきたいです。

鈴木:私も、正しさじゃなくて、楽しさを推していきたいなと改めて思いましたね。すごくシンプルな表現でいえば、「好きになったものを、人は調べる!」って思うんです。フルーツは、年齢やジェンダー、宗教や国籍を問わず、幅広い方にお召し上がりいただけるもの。興味を持っていただけるように、まずは私たちが「食べるきっかけ」を提供することを続けていきたいと思います。(終)
岩槻 正康(いわつき まさやす) 代表取締役/クリエイティブディレクター/ケータリングマネージャー アメリカ合衆国生まれ。東京出身。ニューヨーク州立ファッション工科大学卒業後、DEAN & DELUCA JAPAN、光文社などを経て2009年にフタバフルーツに入社。同社ケータリング担当。2020年にフルーツ専門店「東果堂」を設立、同社の代表取締役に就任。

鈴木 亜由美(すずき あゆみ) COO/企画・進行管理/ストアマネージャー 茨城出身。専門学校卒業後、ヘアメイク、イベント企画運営、コンサルティング等を経験し、カフェ・カンパニーに入社。大型店舗や新規出店のマネージャー職を歴任し、2020年にフルーツ専門企業「東果堂」を立ち上げ時、同社に参画。






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